音声読上げで学べ!中小企業白書【R2年度試験】

こんにちは、Kotaro(@kotaro_05110713)です。

いつもご訪問いただきありがとうございます!

今回は、2019年版 中小企業白書の文章を抜き出したデータを作成しました!

これに各種の音声読上げ機能を組み合わせることで、

歩行時や運転時の手が離せない際にラジオ感覚で学習することができます!

ちなみに、iphoneの音声読上げを使ってみたところ、中には片言になっている部分もありますが、十分活用できると思います。

音声速度を上げて、速読感覚で試してみるのもいいかもしれませんね!

現時点では、下記のとおり文章を分けていて、「全選択」ボタンで一括選択できるようにしております。

1-11-21-31-41-52-1-12-1-22-1-32-1-4,52-2-12-2-22-2-3,43-1-13-1-2,33-2-13-2-2,3
全選択
第1部 平成30年度(2018年度)の中小企業の動向
第1章 中小企業の動向

我が国経済は、2012年末を境に持ち直しの動きに転じ、緩やかな回復基調が続いた結果、現在の景気回復の長さはいざなぎ景気(1965年11月~1970年7月)を超え、さらに戦後最長の景気拡張期となった第14循環の景気拡張期(2002年2月~2008年2月)をも超えて新たに戦後最長の長さとなった可能性がある。企業収益の拡大や倒産件数の減少が続き、経済の好循環が浸透する一方、2018年は度重なる災害をはじめ、人手不足の深刻化、労働生産性の伸び悩みなど、中小企業にとっては懸念点も浮き彫りになる年となった。

以下では、近年の中小企業の経済動向について概観していく。

第1節 我が国経済の現状

はじめに、我が国経済の動向について概観する。実質GDP成長率の推移を確認すると、2018年の年間成長率は0.8%となり、2017年を下回った(第1-1-1図)。2018年の動きについて四半期別に見ると、第3四半期には平成30年7月豪雨など自然災害による押下げがあったが、第4四半期には個人消費と設備投資が増加し、民需に支えられた成長となっている。ただし、情報関連財を中心とした中国向けの輸出の弱含みもあり、外需寄与度がマイナスとなっていることが分かる。

次に産業面の活動状況について、経済産業省「鉱工業生産指数」、「第3次産業活動指数」、「建設業活動指数」、「全産業活動指数」により確認する(第1-1-2図)。まず鉱工業の活動状況については、2016年第2四半期以降持ち直してきたが、2018年に入って以降それまでの水準を維持しつつも一進一退の動きを繰り返している。次に、各種サービス業や小売業など第3次産業については、2014年第2四半期を底に持ち直しており、2018年第4四半期は現行基準で過去最高水準となっている。建設業については、2017年第2四半期に消費増税(2014年4月)前のピークである2013年第4四半期を超える水準となったが、その後は低下傾向にある。最後に、上記3つの指標を統合した全産業活動指数を確認すると、産業全体としては2014年第3四半期以降緩やかな回復基調が続き、2018年は第3四半期には災害の影響もあり足踏みしたものの、その後は再び回復基調に戻っていることが分かる。

次に、業種別に企業の景況感の推移を見るべく、日本銀行「全国企業短期経済観測調査」(以下、「日銀短観」という。)の業況判断DI(前期に比べて業況が「好転」と答えた企業の割合(%)から「悪化」と答えた企業の割合(%)を引いたもの)の推移を確認する(第1-1-3図)。製造業、非製造業ともにリーマン・ショック以降、回復基調を続いていたが、2018年年央以降の業況については、「良い」と答えた企業の割合が、「悪い」と答えた企業の割合を上回っているものの、おおむね横ばいで推移している。

第2節 中小企業の現状

前節では、2018年における実質GDP成長率が好調に推移していること、企業活動の活発化が続いていること、業況が緩やかに回復していることについて見てきた。本節では中小企業に焦点を当て、業況、収益、投資、資金繰り、倒産状況、取引関係といった中小企業を取り巻く状況について、大企業との比較も交えながら近年の動きを確認していく。

1 業況

はじめに、中小企業の業況の動きについて確認すべく、調査対象の8割が小規模企業である、中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」(以下、「景況調査」という。)の業況判断DIの推移を確認する(第1-1-4図)。これを見ると、中小企業の業況はリーマン・ショックの直後に大きく落ち込み、その後東日本大震災や消費税率引上げの影響でところどころ落ち込みはあるものの、その後は総じて緩やかな回復基調にあることが分かる。2018年の動きについては相次ぐ災害の影響もあり、第3四半期に一度落ち込んでいるものの、その後は回復基調に戻っている。

次に、上記の業況判断DIについて地域別・業種別に分解し、昨今の国内情勢と照らし合わせて見ていく。まず地域別に見てみると、2018年第3四半期に前期比で1.5ポイントマイナスとなっており、近畿、中国、四国、そして九州といった、平成30年6月の大阪府北部地震、平成30年7月豪雨、そして台風21号による被害が大きい地域が押し下げ要因になっていることが分かる。第4四半期について見ると、北海道胆振東部地震があった北海道が押し下げ要因となっているものの、九州を除く全ての地域が押し上げ要因となり、全国的に見て業況が回復しつつあることが分かる(第1-1-5図)。

続いて業種別に確認すると、災害発生直後の2018年第3四半期でほとんどの業種がマイナス方向に転じているが、中でもサービス業で業況が悪化したと回答した企業の割合が増加したことが分かる。また、それまでプラスで推移していた建設業も押し下げ要因となり、「平成30年7月豪雨により被害が多大なため通常業務が全く出来ない情況であった。」、「災害工事があり、仕事は多いけど、資金が間に合わない。」という声も聞かれた(第1-1-6図)。

2 売上高

続いて、中小企業の収益の状況について、財務省「法人企業統計調査季報」を用いて売上高、経常利益、設備投資の動きについて見ていく。

まず売上高の推移について規模別に確認すると、リーマン・ショックの直後に大企業、中小企業ともに大きく落ち込み、中小企業はその後2011年の東日本大震災発生後から2012年末まで減少傾向に転じた。その後2013年第1四半期の123.6兆円を底に横ばい傾向が続いていたが、2016年の第3四半期に上昇傾向に転じてからは10期連続で上昇しており、経済の好循環が中小企業にも浸透しつつあることが分かる(第1-1-7図)。

また、2017年から2018年の売上高の増加分について、規模別、業種別に分解して比較すると、大企業では卸売業、製造業を中心に、小売業以外の全ての業種が押し上げ要因となっており、小売業についても押し下げ幅は1.4兆円でとどまっていることが分かる(第1-1-8図)。一方、中小企業について見ると、製造業、建設業、卸売業、サービス業がそれぞれ押し上げ要因となっており、製造業やサービス業については大企業を上回る増加幅だが、小売業が▲2.4兆円と、比較的大きな押し下げ要因となっている。

3 経常利益

次に、経常利益の推移について確認する。中小企業の経常利益は売上高同様、リーマン・ショック直後に大きく落ち込んだが、その後は緩やかな回復基調が続いている。2018年を通じた動きを見ると、やや横ばい傾向に転じたきらいもあるが、過去最高水準となった2017年とほぼ同水準で推移していることが分かる(第1-1-9図)。

さらに、経常利益を要因分解し2017年から2018年にかけての増減額の内訳について確認する(第1-1-10図)。まず大企業について見てみると、人件費が2.9兆円押し下げ方向に作用しているものの、売上高要因が大きな押し上げ要因となり全体として2.9兆円プラスとなっている。一方、中小企業については売上高要因は押し上げ要因の中心となっているものの、人件費要因に加えて変動費要因が押し下げ要因となり、押し上げ要因となっている売上高等を上回る押し下げ幅で、総じて見ると0.6兆円マイナスとなっている。変動費要因がマイナス方向に作用している点を鑑みると、中小企業が仕入価格を販売価格に転嫁しきれていないことが考えられる。

4 設備投資

次に、設備投資の推移について見ていく。直近10年間について見ると、大企業、中小企業共にリーマン・ショック直後の2009年に大きく減少した(第1-1-11図)。その後、大企業については2014年までは横ばいで推移したが2015年に入る頃から強含みで推移し始め、2017年第4四半期から2018年にかけて増勢を強め、足下では6.4兆円となっている。一方、中小企業について見ると、2013年以降強含みで推移していたが、2016年以降はほぼ横ばいで推移しており、足下では2.8兆円と大企業との差は拡大傾向にあることが分かる。

また、設備を新設してからの経過年数を示す設備年齢の推移についても確認する。大企業と中小企業で設備年齢が同水準だった1990年度の設備年齢の指数を100とすると、中小企業の設備年齢はその後大企業を上回る勢いで上昇している。足下について見ると下降傾向にはあるものの、大企業の設備の老朽化の度合いが1990年度の約1.5倍であるのに対し、中小企業は約2倍老朽化が進んでいることが分かる(第1-1-12図)。

これに関連し、企業規模別に研究開発費の費用の推移を確認すると、1970年を起点としたとき、中小企業は緩やかな上昇基調で推移している。一方、大企業について見ると総じて右肩上がりで推移しており、中小企業との差は年々拡大傾向にあることが分かる(第1-1-13図)。

また、直近5年間分の中小企業の貸借対照表の推移について見ると、負債・純資産の部では利益剰余金等が増加傾向にあり、資産の部で現預金が増加する一方、有形固定資産・無形固定資産がほぼ横ばい傾向にあることから、ここからも中小企業が設備投資に積極的に踏み切れていない様子が分かる(第1-1-14図)。

続いて設備判断DIについてその推移を確認すると、全体的にリーマン・ショック後から過剰感が解消され、中小企業では2012年末、大企業では2017年前半に不足に転じ、足下で不足感が強まりつつある状況にあることが分かる(第1-1-15図)。また、製造業について見ると、2017年第2四半期までは大企業と中小企業の水準に差はほとんど無かったが、2017年第3四半期以降、中小企業の方がより強く不足感を感じていることが分かる。同様に、非製造業についても、2013年第3四半期までは規模間における差異はほとんど無かったが、2013年第4四半期以降は中小企業の方がより強く不足感を感じていることが分かる。

設備投資関連の現状把握の最後に、IT関連指標としてソフトウェア投資額・ソフトウェア投資比率の推移について見ると、大企業と中小企業の投資額には大きな差が生じている(第1-1-16図)。ソフトウェア投資比率についても、中小企業は大企業を下回っているが、2016年第4四半期以降伸び始めていたが、足下の2018年について見ると足踏みしていることが分かる。

5 資金繰り・倒産

まず中小企業の資金繰りについて景況調査を用いて確認すると、リーマン・ショック後に大きく落ち込み、その後は東日本大震災や2014年4月の消費税増税の反動減でところどころ落ち込んではいるものの、おおむね右肩上がりで推移している(第1-1-17図)。

また、中小企業向け貸出金の推移についても確認してみると、2012年まではおおむね横ばいで推移してきたが、2013年以降は右肩上がりで推移しており、足下について見ると、統計開始以降過去最高水準で推移していることが分かる(第1-1-18図)。

次に、倒産件数の推移について確認する(第1-1-19図)。先述のとおり、良好な資金繰り環境が功を奏し、倒産件数は2009年以来10年連続で減少し、2018年の倒産件数は8,235件となり、バブル期の1990年以来28年ぶりの低水準となった。

規模別の推移について見ると、中規模企業は年々減少傾向にあり、小規模事業者についても倒産件数の大部分を占めるものの、中規模企業同様に減少傾向にあることが分かる(第1-1-20図)。

また、廃業件数について見ると、倒産件数が減少傾向を続けている一方で、経営者の高齢化や後継者不足を背景に休廃業・解散企業は年々増加傾向にあり、3万件台から4万件台に推移している(第1-1-21図)。

6 取引関係

中小企業の取引環境について、仕入価格を販売価格にどれ程転嫁できているかの指標として、日銀短観の販売価格DIから仕入価格DIを引いた数値である交易条件指数について見ていく(第1-1-22図)。1990年代までは景気回復局面に大企業と中小企業がほぼ同水準で推移する動きも見られるなど、規模間の差はほぼ無かったが、2000年代に入ると両者の差は徐々に開きはじめ、足下でも埋まらずに推移している。

第3節 まとめ

2018年の我が国経済はそれまでの緩やかな回復基調を維持し、中小企業、小規模事業者についても業況、資金繰りは回復傾向にあり、また経常利益については過去最高水準を維持している。さらに倒産件数については10年連続で減少を続け、1990年以来28年ぶりの低水準にあるなど中小企業、小規模事業者を取り巻く状況は改善傾向にある。

他方で設備投資額が伸び悩み、製造業・非製造業ともに設備の不足感が増大していること、大企業に比べ中小企業が仕入価格を販売価格に転嫁しきれていない状況を見ると、これらの課題に向き合い、中小企業、小規模事業者の更なる成長のための設備投資推進施策、取引条件の改善施策を行うことが引き続き重要であると考えられる。
全選択
第2章 中小企業の構造分析

前章では、企業活動が活発化していること、中小企業については売上高、経常利益、資金繰り、倒産状況については前年に引き続き良好な状況ではあるが、その一方で設備投資、取引環境については依然として改善の余地があることが確認された。

本章では、企業数及び従業者数の変化、さらに開廃業という観点から我が国の中小企業の現状について概観していく。

第1節 企業数の変化

まず、我が国の企業数の推移を確認すると、1999年以降は年々減少傾向にあり、直近の2016年には359万者となっている。このうち、中小企業は358万者であり、その内訳は小規模事業者305万者、中規模企業53万者となっている。2014年から2016年の2年の間に企業数は23万者(6.1%)の減少となった(第1-2-1図)。規模別に内訳を見ると、大企業が47者増加、中規模企業が3万者減少、小規模企業が20万者減少しており、特に小規模企業の減少数が大きいことが分かる。

ここでいう「中規模企業」とは、中小企業基本法上の中小企業のうち、同法上の小規模企業に当てはまらない企業をいう。

また、1999年を基準として規模別の減少率を見ても、小規模企業は調査年毎にマイナス幅を拡大させており、減少傾向を強めている(第1-2-2図)。

続いて、中小企業の業種別の企業数及び増減率の推移を確認する(第1-2-3図、第1-2-4図)。これを見ると、1999年時に比べて電気ガス水熱、運輸通信業は企業数を増やしているが、他の業種については減少傾向にあり、特に鉱業や小売業については減少率が高いことが分かる。

第2節 開廃業が企業に与える影響

ここまで企業数の推移に関し、規模別・業種別にその内訳について見てきたが、以下では2012年~2016年にかけて、企業の開廃業が企業数、従業者数、付加価値額の変化に与えた影響について見ていく。

はじめに、開廃業が企業数に与えた変化について、その内訳を見ていく(第1-2-5図)。まず、2012年に存在した企業について、このうち295万者は2016年時点でも存在しており、50万者は2012年から2014年に廃業し、33万者は2014年から2016年の間に廃業しているため、2012年から2016年にかけて、廃業により計83万者の企業が減少している。同様に2016年について見ると、2012年に存在しなかったが2012年から2014年にかけて26万者の企業が開業し、2014年から2016年にかけ20万者の企業が開業しているため、2012年から2016年にかけて、開業により計46万者の企業が増加している。これらを総じて見ると、2012年から2016年にかけて27万者の企業が減少していることが分かる。

次に、開廃業企業の規模別の内訳について見ていく(第1-2-6図)。まず、開業企業について見ると、大企業開業が0.1万者、中規模開業が7.6万者、小規模開業が38.6万者と、計46万者の開業企業のうち8割超が小規模企業であることが分かる。一方、廃業企業について見ると、大企業廃業が0.1万者、中規模廃業が7.5万者、小規模廃業が75.8万者と、計84万者のうち9割超が小規模企業となっている。開業企業、廃業企業の両者において、そのほとんどが小規模企業で占められている点は共通しているが、廃業企業における小規模企業の数が開業企業における小規模企業の数を上回り、総じて見ると37万者が減少している。

続いて、存続企業内における規模間移動の状況について見ていく(第1-2-7図)。存続企業のうち95%を超える企業については規模の変化は無いが、規模を拡大させた企業が7.3万者、規模を縮小させた企業が6.7万者存在し、それらのうちほとんどが小規模企業から中規模企業への拡大、中規模企業から小規模企業への縮小で占められていることが分かる。

ここまでは開廃業が企業数の変化に与える影響について見てきたが、以下では従業者数の変化に与える影響について見ていく。まず2012年から2016年にかけての従業者数の推移について確認する(第1-2-8図)。これを見ると、小規模企業においては148万人減少しているが、中規模企業については152万人、大企業については62万人の従業者数が増加しており、大企業や中規模企業に従業者が集まってきていることが考えられる。

続いて、存続企業、開業企業、廃業企業別に、従業者数の増減について見ていく(第1-2-9図)。存続企業のうち、従業者が増加した企業では494万人増加し、減少した企業では464万人が減少したことで全体として30万人従業者が増えている。開業企業では中規模企業を中心に356万人の従業者が増加し、廃業企業では中規模企業と小規模企業を中心に503万人の従業者が減少した。これを見ると、廃業によって失われた雇用の多くは、開業企業が吸収していることが分かる。

最後に、付加価値額の推移について開廃業企業、存続企業別に内訳を見ていく(第1-2-10図)。2011年から2015年にかけて、開業企業によって創出された付加価値額と、廃業企業によって失われた付加価値額にさほど差は生じていない一方、存続企業が157.8兆円から192.4兆円へと約35兆円付加価値額を伸ばしており、存続企業が稼ぐ力を身につけていると考えられる。

第3節 まとめ

本章では、企業数の推移を規模別・業種別に確認し、加えて企業の開廃業による企業数の変化、従業者数の変化、付加価値額の変化について分析を行った。

我が国の企業数は規模別に見ると小規模企業の減少が影響し、また業種別に見ると小売業の減少が影響して減少傾向にあることが分かった。

また、開廃業が企業数の変化に与える影響については、小規模企業の廃業数が開業数を倍近く上回ったため、全体として企業数が減少した。従業者数の変化に与える影響については、廃業が従業者の減少に与える影響が大きいことが分かった。

最後に付加価値額の変化を開廃業・存続企業別に見ると、存続企業が付加価値額を伸ばすことで全体の付加価値額を押し上げているということが分かった。我が国全体の稼ぐ力をより強いものとするためには、上記のように存続企業が付加価値額を増やすことはもちろん重要であるが、稼ぐ力を持っていながら後継者が確保できず廃業せざるを得ない経営者の事業や経営資源の引継ぎ、あるいは新たに創業した企業が軌道に乗るまでの創業支援によってこれらの層の付加価値額を伸ばしていくことが極めて重要といえる。廃業及び創業についての詳細は第2部で行うこととし、本章の結びとしたい。
全選択
第3章 財務データから見た中小企業の実態

第2章で確認したとおり、2016年時点の我が国の企業約359万社のうち、中小企業は99.7%を占めており、極めて多様である。これまでの中小企業白書でも、様々なデータによって中小企業の多様性が裏付けられてきた(例えば、2004年版中小企業白書 、2011年版中小企業白書)。しかし、これまで、大規模な財務データを利用して中小企業の全体像を捉えるとともに、財務データから見た中小企業の経年変化を捉える試みはあまりなされてこなかった。

例えば、2004年版中小企業白書では、規模別に企業の売上高経常利益率の割合を比較しており、中小企業が大企業よりもばらつきがあることを示している。2011年版中小企業白書では、大企業と中小企業の労働生産性や資本装備率、売上高経常利益率等の分布を比較している。

そこで、本章では、大規模な中小企業の財務データを利用して、中小企業の全体像を捉えるとともに、中小企業における財務状況の経年変化を確認していく。

また、第1部第1章で見たとおり、中小企業の設備投資は足下でほぼ横ばいで推移しており大企業との差が拡大傾向にあるほか、設備の老朽化、設備の不足感が進んでいることが確認されたが、他方、コストをかけて設備投資を行ったとしても、企業のパフォーマンスが高まらなければ設備投資を行う意味はない。昨今の設備投資の低迷は、設備投資が業績に及ぼす影響が不透明で、経営者が投資を躊躇しているためにもたらされている可能性がある。そこで、財務データを利用し、設備投資が業績に及ぼす影響についても分析を行う。

なお、本章の分析では(一社)CRD協会の法人データベース(以下、CRDデータ)から抽出した2007年度から2016年度までの10年間分のデータを利用する。

(一社)CRD協会のデータベースは、全国の信用保証協会と金融機関を中心とした会員から匿名形式で提供されており、中小企業の財務情報、非財務・属性データ、デフォルト情報を基に構築されている。
同社の財務データの特徴は、データ提供者の性質上、「借入がある中小企業」に偏っているものの、各年度、約100万社もの決算書が収録されているほか、2007年度から2016年度までの10年間の連続決算が確認できる企業に限定しても約47万社分のデータがあり、時系列の業績変化を分析するのにも適している。(詳細は付注1-3-1参照)

第1節 財務面から見た中小企業の多様性

まず、中小企業の全体像をつかむため、2016年度のCRDデータ(約95万社)の売上高、営業利益、総資産、純資産の4つの財務指標における中小企業の分布状況を見ていく。

年度別(2007年度-2016年度)の分布状況の詳細は付注1-3-2を参照のこと。分布状況の分析を行うに当たって、収録されている企業を財務指標ごとに最小値から最大値まで並べて、構成割合を算出し視覚化した。図に示している中央値(p50)は、財務指標ごとに最小値か最大値まで並べたときの、ちょうど中間(50%)に位置する企業の財務指標の数値であり、p10は下位からちょうど10%、p90は上位からちょうど10%に位置する企業の数値を意味する(付注に同じ)。

第1-3-1図は売上高から見た中小企業の企業構成割合の分布である。中央値は9千9百万円で、売上高1億円以下の中小企業が全体の50%強を占めている。また、構成比として最も多いのは売上高3~4千万円の企業である。

第1-3-2図は営業利益の分布である。営業利益で見ると中央値である1百万円近傍に企業が集中している。

続いて、総資産の分布を見ると(第1-3-3図)、総資産の中央値が約7千万円であるのに対して、構成比として最も多いのは総資産2~3千万円の企業である。

最後に、純資産の分布を確認する(第1-3-4図)。純資産で見ると中央値である6.9百万円近傍に企業が集中している。

第2節 時系列でみた財務状況の推移

1 営業利益の推移

続いて、中小企業の財務状況の時系列の変化について確認していく。

第1-3-5図は、2007年度から2016年度における営業利益の黒字/赤字企業の割合の推移である。これを見ると、2008年に発生したリーマンショックの影響により、2009年度の赤字企業は一時的に約50%近い水準まで増加したものの、その後は景気回復を背景に赤字企業の割合は緩やかに減少し、2016年は35.3%にまで低下している。

次に、中小企業がどの程度安定して利益計上を行っているのかを確認するために、2007年度から2016年度まで連続で財務情報を確認できる約47万社について、当該10年間に記録した営業赤字の回数を確認する(第1-3-6図)。

これを見ると、2007年度から2016年度の10年間のうち、5回以上赤字を記録した企業は約17万社であり、全体の36%存在している。他方、リーマンショックや東日本大震災などの外的ショックに見舞われながらも、10年間連続で黒字計上を続けている企業も15%存在している。

2 純資産の推移

続いて、資産超過/債務超過企業の割合について確認する。第1-3-7図を見ると、営業利益で見たときと同様に、リーマンショック後の2009年度から2011年度にかけて債務超過企業の割合が増加したが、その後、緩やかに債務超過企業の割合は減少している。

次に、2007年度と2016年度の2時点において、それぞれの自己資本比率の水準に対する企業数の構成割合の変化を確認する。

第1-3-8図を見ると、2007年度、2016年度ともに、自己資本比率0%以上20%の中小企業が最も多い。しかしながら、2007年度と2016年度の2時点比較をすると、自己資本比率▲20%以上+40%未満の企業割合が減少し、▲40%未満の企業、+40%以上の企業割合が増加している。この10年間、中小企業の間で、利益を確保し自己資本比率を改善できている企業と、そうでない企業の二極化が進んでいる可能性がある。

次に、2007年度から2016年度にかけての業績の変化を確認していく。

第1-3-9図は、2007年度と2016年度の2時点で財務データが確認できる約63万社について、2時点の自己資本比率の変化を見たものである。

2007年度時点で確認できる財務データの件数は約113万件である。このうち、2016年度までにデフォルトした企業数は約13万件である。また、デフォルトが確認されなかった企業のうち、37万社については2016年度時点で財務データが確認できなかった。デフォルトが確認されなかった企業で2016年度時点において財務データが確認できなかった企業は、観測できないデフォルトや自主廃業をした企業が含まれるほか、金融機関からの借入金を完済(金融機関との取引を終了)した企業が含まれている。

これを見ると、2007年度時点において自己資本比率▲20%未満の企業の約79%は10年後においても自己資本比率は▲20%未満であり、大幅な債務超過に陥っている企業の経営改善の難しさが分かる。他方、2007年度において自己資本比率▲20%以上0%未満の債務超過企業に関しては、約32%の企業が資産超過に転じており、債務超過が軽微なうちに経営改善を進めることの重要性が示唆される。

最後に、デフォルト状況について確認していく。

CRDデータは、信用保証協会、金融機関から財務データと共に、デフォルト情報に関するデータも匿名形式で収集している。ここでのデフォルトは、実質破たん、破たん、代位弁済の三つの事象を指すものとして定義する。

2007年度に財務データが確認できる企業数は約113万社存在しており、2016年度までにデフォルトが確認された企業数は約13万社(11.2%)であった。

次に、2007年度から2016年度までにデフォルトした企業約13万社について、2007年時点の自己資本比率の水準について確認すると(第1-3-10図)、自己資本比率▲20%未満の企業の約17%が、▲20%以上0%未満の約14%が10年以内にデフォルトしており、債務超過の大きい企業ほどデフォルト率が高い傾向にあることが分かる。

第3節 設備投資が財務パフォーマンスに与える影響

本節では、CRDデータを利用して、設備投資の効果の測定を試みる。2018年版中小企業白書では、労働生産性を向上させる手段としての設備投資の重要性への言及があり、設備投資と労働生産性の相関関係が示された。しかし、「労働生産性の高い企業であるから設備投資が可能である」「経営者の優秀さが設備投資や労働生産性向上に影響している」といった他の因果関係により相関関係が生じている可能性は否定できず、厳密に設備投資と労働生産性の因果関係を示せてはいなかった。

本分析は、日本大学経済学部の鶴田大輔教授の協力の下で行った。

設備投資が労働生産性などのパフォーマンスに与える影響を測定するためには、同一企業が設備投資を行った場合と行わなかった場合の業績を比較することが最善であるが、そのようなことは不可能である。

そこで、今回の分析では、「傾向スコアマッチング」及び「差の差分析」という手法を用いて、設備投資を行った企業と同じような傾向を持つ設備投資を行っていない企業を抽出して比較を行うことで、同一企業の設備投資の有無を比較することに近い分析を行う。これにより、「設備投資がパフォーマンスに影響した」という因果関係のみを確認することが可能となる。この方法の詳細は、付注1-3-3を参照されたい。

今回の分析では、2009年度、2010年度、2011年度に設備投資を行った中小企業の5年後までのパフォーマンスを比較する。なお、今回の分析に当たり、11の財務指標の変化について分析を行っているが、ここでは特に「投資効果に対するパフォーマンス」を測定するに当たって重視すべき経営指標である、売上高、ROA、現預金、従業員数の4つの指標について見ていく。また、設備投資を行った企業は、基準年度において、資産の合計額に対する設備投資額の割合を算出し上位20%の企業を対象とした。

今回の分析では、ROA、売上高、現預金、従業員数以外の指標として、営業利益、資産合計、長短借入金、有形固定資産、棚卸資産、売上債権、労働生産性でも同様に分析を行っている(付注1-3-3参照)。

詳細は付注1-3-3を参照。

まず、設備投資が売上高に与える影響を確認する。第1-3-11図を見ると、設備投資実施から1年後については、実施企業は非実施企業と比較して売上高が低下するものの、2年後以降は増加していることが分かり、2009年度、2010年度、2011年度の全ての設備投資年度で、2~5年後のいずれの年度も統計的に有意な差が得られている。

次に、第1-3-12図は設備投資後のROAの変化である。これを見ると、売上高と同様に設備投資実施から1年後については、実施企業は非実施企業と比較してROAが低下している。しかし、2年後以降は非実施企業と比較してROAが改善しており、特に5年後には、2009年度、2010年度、2011年度の全ての設備投資年度で、統計的にも有意な差が得られている。

次に、現預金の変化(第1-3-13図)と従業員数の変化(第1-3-14図)を確認する。これらを見ると、現預金、従業員数ともに設備投資実施の翌年から増加することが分かり、2009年度、2010年度、2011年度の全てで統計的に有意な差が得られている。現預金の増加に関しては、売上高、ROAが増加しているという結果を踏まえると、キャッシュフローの改善が寄与した可能性がある。

以上のとおり、ROA、売上高、現預金、従業員数の指標で見ると、投資の翌年については投資効果が顕在化しない指標があるものの、5年後いずれの指標も統計的に有意な水準でプラスの効果が表れることが分かる。

ただし、本分析ではあくまで投資を実施した企業の平均的なパフォーマンスが、実施していない企業の平均的なパフォーマンスより高いことを示すことに留まっている。設備投資を行った企業は、具体的な経営目標・戦略を持ったうえで設備投資を行っている可能性があり、無計画に設備投資を行った場合、必ずしも同様の成果が得られるとは限らない点に注意が必要である。

第4節 まとめ

本章では、多様な中小企業の動態を、CRDデータを利用して財務面から捉えることとした。

第1節では、中小企業の主な財務指標から中央値と平均値を算出するとともに、各経営指標における中小企業の分布状況を把握した。ここでは、平均値が中央値を大きく上回り、中小企業の中でも業績に大きなばらつきがあることを改めて確認した。

第2節では、2007年度から2016年度までの業績の推移を確認した。リーマンショック後、赤字企業の割合は漸減傾向にあるものの、恒常的な赤字体質企業も一定数存在していることが分かった。また、純資産の推移からは、業績を伸長させている企業とそうでない企業の間で二極化が進んでいる可能性についても明らかになった。さらに、債務超過の企業に着目すると、債務超過が大きいほど業績改善が困難であり債務超過が軽微な段階で経営改善に着手することが重要であることを示した。

第3節では、傾向スコアマッチングの手法を用い、設備投資を実施した企業の投資後のパフォーマンスの分析を試みた。結果としては、概ね5年までにROA、売上高、現預金、従業員数について増加することが統計的に有意な水準で確認された。
全選択
第4章 人手不足の状況

昨今、少子高齢化を背景として人口が減少傾向にあることに加え、生産年齢人口が減少していることにより、人手不足が深刻になりつつある。

今後更なる人口減少が続き、人手不足がますます深刻になることが見込まれる中、我が国経済の成長のためには中小企業が労働生産性を高め、稼ぐ力を強化していくことが不可欠である。

本章では、人手不足の実態を確認するとともに、我が国の労働生産性の現状を把握し、また人手不足の状況下での雇用確保の在り方について概観する。

第1節 深刻化する人手不足の現状

はじめに、我が国の人口の推移と年齢別構成比について確認する(第1-4-1図)。我が国の人口は2008年をピークに、2011年以降は減少が続いており、将来的にも減少が続く見込みとなっている。内訳について見ると、64歳以下の生産年齢人口が減少傾向にある一方、75歳以上の高齢者人口の割合が増加し続けていくことが分かる。

就業率について見ると、1992年をピークに減少傾向にあったが、2012年を底にそれ以降は毎年上昇し続けている(第1-4-2図)。就業者数も2013年から6年連続で増加しており、足下の2018年に統計開始以降で最高水準を記録している。

これを性別及び年齢ごとに確認する(第1-4-3図)。まず男女別に見ると、M字カーブの谷の部分である、女性の25~44歳の年齢層で、また、年齢別に見ると特に60~69歳の高齢者の中でも比較的若い層で労働参加が進んでいることが分かる。

次に、求人倍率と完全失業率の推移について確認していく(第1-4-4図)。有効求人倍率及び新規求人倍率について見ると、リーマン・ショック以降緩やかに上昇し続けており、有効求人倍率は、足下では約45年ぶりの高水準、新規求人倍率は過去最高水準で推移している。完全失業率については、リーマン・ショック以降ほぼ一貫して減少傾向が続き、足下では約26年ぶりの低水準となった。

求人倍率の高まりに関連し、以下では事業所の従業者規模別の求人動向を見ていく。事業所の従業者規模別の求人数の推移について見ると、500人以上の事業所についてはほぼ横ばい、30~99人、100~499人の事業所については緩やかな上昇傾向に留まっているのに対し、29人以下の事業所に係る求人数については2009年以降、30人以上の規模の大きな事業所に係る求人数と比較して大幅に増加していることが分かる。(第1-4-5図)。

続いて、従業者規模別の雇用者数の推移についても確認する(第1-4-6図)。従業者規模が30~99人の事業所については横ばい、100~499人の事業所については強含みで推移している。500人以上の事業所の場合、右肩上がりで年々雇用者数を増加させている一方、29人以下の事業所は右肩下がりで推移しており、従業者規模の小さい事業所ほど新たな雇用の確保が難しいと考えられる。

ここまで年齢別人口の推移や雇用の現状についてマクロ的な視点から確認してきたが、続いては中小企業の人手不足感について見ていく。景況調査を用いて中小企業の人手不足感を業種別に確認すると、2013年第4四半期以降、全ての業種で人手が足りていないと答えた企業の割合が優勢となり、その後も年々人手不足感が強まり続けている状況にある(第1-4-7図)。特に建設業やサービス業といった労働集約的な業種で人手不足感が顕著に表れていることが分かる。

続いては、UV分析と呼ばれる手法を用い、完全失業率を均衡失業率と需要不足失業率の2つに分解し、構造的な要因による失業と景気変動に伴う失業に分解する。

足下について見ると、需要不足失業率がマイナスとなっており、企業が人手不足の状況にあるといえる(第1-4-8図)。このような状況では、失業は主に職探しや再就職に時間が掛かることによる摩擦的失業や、求人と求職の条件が一致しないことによって生じる構造的失業で占められていると考えられる。

続いて、職業別、企業規模別の雇用のミスマッチの状況を確認する。

職業別求人倍率を2016、2017、2018年の3か年で比較すると、管理的職業以外のどの職業についても求人倍率は増加しており、全体的に人手不足感が強まっていることが分かる(第1-4-9図)。ただし、職業毎に人手不足の程度に差異があり、最も求人倍率の高い保安の職業の求人倍率が2018年時点で7.8倍である一方、事務的職業については0.5倍と1倍を下回っているなど、職業間で人手不足の程度にばらつきが生じている。

次に、従業者規模別に大卒予定者の求人数及び就職希望者数の推移を見ていく。まず就業者数299人以下の企業について見ると、大卒予定者の求人数は足下では2015年卒から5年連続で増加している一方、就職希望者について見ると2017年卒から減少傾向にあり、求人倍率は足下の2019年では9.9倍になり、2018年卒の6.4倍から大きく増加していることが分かる(第1-4-10図〔1〕)。

一方、従業者300人以上の企業について見ると、2016年卒までは求人数が増加し希望者が減少していたことで求人倍率も上昇傾向にあったが、2017年卒以降について見ると求人数の増加傾向は変わらないものの、求職者数がそれを上回る増加傾向に転じたため、2019年卒の求人倍率は0.9倍となり1倍を下回る結果となった(第1-4-10図〔2〕)。

続いて、前職の従業者規模別に見た、現職の企業規模別転職者数の推移について見ていく(第1-4-11図)。従業者数1~299人の企業を中小企業、300人以上の企業を大企業として、まず前職が中小企業だった場合について確認すると、現職の従業者規模が5~299人の企業への転職者数がほぼ横ばいで推移している一方、従業者300人以上の企業への転職者数は増加傾向にある。次に前職が大企業だった場合、こちらも現職の従業者規模が5~299人の企業への転職者数はほぼ横ばいだが、従業者300人以上の企業への転職者数は増加傾向にあり、総じて見ると中小企業が転職先として選ばれにくい傾向にあることが考えられる。

上記では前職の従業者規模別に見た現職の規模の企業への転職者数の推移を確認したが、次に大企業、中小企業への入職者それぞれの入職理由について、前職・現職の規模別に確認する(第1-4-12図)。まず大企業から中小企業への入職理由として、中小企業から転職する場合よりも「能力・個性・資格を生かせる」と答えた者の割合が高いことが分かる。また、「労働条件が良い」点では中小企業に入職する場合が大企業に入職する場合よりも上回っており、働きやすさを求めて中小企業へ転職する人が多いことが考えられる。

第2節 中小企業の労働生産性の現状

これまで、我が国経済の緩やかな回復基調を背景に全体の雇用環境は改善しているものの、中小企業を取り巻く雇用環境として、大卒予定者や転職者の大企業志向の高まり等により、人手不足が深刻化している状況を確認した。加えて、将来的に人口減少が見込まれる中、我が国経済の更なる経済成長のためには、359万者のうち99.7%を占める中小企業が労働生産性を高めることが重要となってくる。

最初に、大企業との比較をしつつ、中小企業の労働生産性の現状について概観する(第1-4-13図)。大企業について見ると、リーマン・ショック後に一度落ち込んでいるものの、その後は一貫して緩やかな上昇傾向にある。一方で中小企業について見ると、大きな落ち込みは無いものの長らく横ばい傾向が続いており、足下では大企業との差は徐々に拡大していることが分かる。

また、中小企業の労働生産性について業種別に分解して見ると、建設業や卸売業では緩やかな上昇傾向にあるのに対し、製造業、小売業、サービス業では横ばいに推移していることが分かる(第1-4-14図)。大企業との差を埋めるためには、既に上昇傾向にある業種の更なる進展を支援するとともに、伸び悩んでいる業種を上昇傾向に転換させる施策を講じることが必要である。

次に、2016年から2017年にかけての労働生産性上昇率の内訳について、業種別、規模別に確認する(第1-4-15図)。まず製造業について、従業者を増やしたことによる従業者要因の下げ幅は大企業と中小企業との間で差は生じていないが、付加価値額を伸ばしたことによる付加価値要因についてはおよそ3倍の差が生じている。非製造業について見ると、中小非製造業は付加価値要因も従業者要因も大企業の約半分の水準ではあるものの、付加価値要因が従業者要因を上回り、総じて見ると労働生産性はわずかに上昇していることが分かる。

続いて、我が国の労働生産性及び労働生産性上昇率について、OECD諸国と比べつつその水準を確認する(第1-4-16図)。まず労働生産性については、去年と変わらずOECD加盟諸国36か国中21位であり、首位のアイルランドのおよそ半分程度の水準である。また、労働生産性上昇率については36か国中29位と低い水準となっている。

第3節 企業を取り巻く労働環境について

ここまで、我が国の中小企業が直面している人手不足の状況を見たところで、求人に大きな影響を及ぼす雇用環境の現状について見ていく。

前掲の第1-4-12図において前職・現職の従業者規模別の入職理由の割合について確認したが、大企業に比べ中小企業へは収入面に期待して転職する割合はあまり高くなかった。ここで企業規模別の給与額の推移について見てみると、中小企業の給与額は2010年以降徐々に上昇し続けているものの、大企業の給与水準との格差は埋まらずに推移しており、大企業の水準に近づけることが人手不足解消の一つの鍵といえる(第1-4-17図)。

給与額の推移に関連し、従業者規模別に賃上げ率の推移についても確認する(第1-4-18図)。足下の20年間について見ると、299人以下の企業の賃上げ率は、2010年頃から上昇傾向にはあるものの、それ以上の規模の企業の賃上げ率を概ね下回っており、従業者規模による格差は拡大しているといえる。

ここまで中小企業の賃金が伸び悩んでいる状況を確認したところで、「企業活動基本調査」を用いて我が国における実質労働生産性上昇率と実質賃金上昇率の関係性について見ていく。第1-4-19図を見ると、両者には正の相関があり、実質労働生産性上昇率が高まると実質賃金上昇率も高まることが分かる。

賃金に続き、休暇取得の状況について見ていく。まずは、従業者規模別の年間休日総数の企業割合について確認する(第1-4-20図)。これを見ると、年間休日総数が109日までの場合、どの日数においても従業者規模が小さな順に取得割合が高くなっていることが分かる。これとは逆に、年間休日総数が110日を超えると従業者規模の大きな順に取得割合が高くなっており、規模の小さな企業ほど有給休暇等の取得が進んでいないと考えられる。

続いて、企業規模別に労働者1人当たり平均年次有給休暇の取得日数の推移について確認する(第1-4-21図)。直近10年について推移を見てみると、従業者規模1,000人以上の企業が足下でやや強含みで推移しているほか、999人以下の企業については取得日数が少ないまま横ばいで推移しており、規模の小さい企業ほど有休取得が進んでいないことが考えられる。

最後に、企業規模別に特別休暇の利用企業割合ついて見ていく(第1-4-22図)。これを見ると、夏季休暇については従業者規模間における差異は比較的小さいが、病気休暇、リフレッシュ休暇、ボランティア休暇においては従業者規模間における差異が顕著であり、中小企業にはまだ改善の余地があると言える。

第4節 新たな雇用の担い手

これまで見てきたとおり、規模の小さな企業の雇用環境は規模の大きな企業との差があるが、そのような環境においても採用対象者を工夫することで人手不足に対応している企業も存在する。例えば、これまで社会進出の進んでいなかった女性などの雇用を増やすことが挙げられる(第1-4-23図)。これを見ると、直近10年間で、特に非正規の雇用形態において、女性の雇用者数が増加していることが分かる。

また、これまで社会進出の進んでいなかった層として、60歳以上のシニアが挙げられる(第1-4-24図)。シニア層においても、女性と同様に非正規雇用での雇用者数が増加しており、ライフスタイルに合わせて柔軟に働いたり、無理の無い程度に働いたりすることで社会進出を進めていることが考えられる。

第1-4-10図〔1〕で新規大卒予定者について、規模の小さな企業への希望者数が年々減りつつあることを確認したが、非正規というかたちで女性やシニアの労働者数が増えていることを見てきたとおり、採用の方法は新卒の正規雇用に限られない。人手不足への対応策の最後に、常用労働者の中途採用事業所割合の推移を確認する(第1-4-25図)。直近10年間の推移について見ると中小企業の中途採用事業所割合は増加傾向にあり、人手の足りない事業所においては中途採用という形態で人を雇うことも対策の一つとなっている可能性が考えられる。

第5節 まとめ

本章でははじめに、少子高齢化を原因とする人口減少及び年齢構造の変化について見たあと、就業率の上昇によって就業者数自体は増加傾向にあることを確認した。求人倍率は年々上昇傾向にあり、従業者規模別に見ると規模の小さな事業者程求人数が多く人手不足の状況にあり、また業種別に見ると人手不足の度合いに差が生じていることも分かった。

上記のような人手不足の状況下で、中小企業の労働生産性について見ると伸び悩んでおり、企業全体で見てもOECD加盟諸国の中でも低い水準に位置しており、全企業数の99.7%を占める中小企業の労働生産性を上げることは喫緊の課題と言える。

労働生産性向上の鍵となる労働環境について見ると、賃金は伸び悩み、休暇取得状況についてもまだ改善の余地がある。働きやすさを求めて中小企業に入職した者を離さず、中小企業が稼ぐ力を身に着け労働生産性を向上させるためには、これらの課題に正面から向き合った労働環境づくりが重要である。
全選択
第5章 開廃業の状況

第2章では企業数の変化に加え、開廃業の与える企業数・従業者数への影響について分析を行った。本章では、厚生労働省「雇用保険事業年報」を用いて我が国の開業率及び廃業率について現状把握を行う。

雇用保険事業年報をもとにした開廃業率は、事業所における雇用関係の成立、消滅をそれぞれ開廃業とみなしている。そのため、企業単位での開廃業を確認できない、雇用者が存在しない、例えば事業主1人での開業の実態は把握できないという特徴があるものの、毎年実施されており、「日本再興戦略2016」(2016年6月2日閣議決定)でも、開廃業率のKPIとして用いられているため、本分析では当該指標を用いる。上記の様な特徴があることから、第1-2-1図で確認した企業数の推移とは一致しない点に留意する必要がある。

第1節 開廃業の動向

まず開業率・廃業率の推移について、我が国の開業率は、1988年をピークに減少傾向に転じ、2000年代を通じて緩やかな上昇傾向で推移し、足下では5.6%となっている(第1-5-1図)。他方、廃業率について見ると、1996年以降増加傾向が続いていたが、2010年に減少傾向に転じ、足下では3.5%となっている。2000年から2010年にかけては開廃業率ともに4%台で推移していたが、2010年以降はその差は年々拡大していることが分かる。

次に、諸外国の開廃業率の推移と我が国の開廃業率の推移を国際比較する(第1-5-2図)。まず開業率について見ると、最も高いフランスは13.2%、最も低いドイツでも6.7%と日本の5.6%を上回っている。廃業率について見ても、最も高いイギリスで12.2%、最も低いドイツで7.5%と日本の3.5%を上回っている。我が国と各国の統計の方法が異なっているため単純な比較はできないものの、国際的に見ると我が国の開廃業率は相当程度低水準であることが分かる。

次に、開廃業率を業種ごとに見たときの分布状況を確認する(第1-5-3図)。開業率について見ると、建設業が最も高く、また事業所の数も多いため全体の開業率を押し上げており、逆に製造業の開業率が最も低く、同様に事業所の数も多いため全体の開業率を押し下げている。また、廃業率について見ると開業率に比べると業種ごとの差異は小さくなっているが、宿泊業、飲食サービス業や小売業は廃業率も高く事業所も一定数存在するため全体の押し上げ要因となっており、医療、福祉業については廃業率も低く事業所数が多いため全体の押し下げ要因となっている。

開業率、廃業率の二つを軸に取り見てみると、宿泊業、飲食サービス業は開業率と廃業率の両方が高く、事業所の入れ替わりが頻繁に行われているといえる。

続いて、都道府県別の開廃業率について見ていく(第1-5-4図)。開業率について見ると、沖縄が最も高く9.3%であり、次いで埼玉、東京と首都圏の都道府県で高い数値が確認された。開業率が最も高い沖縄では、宿泊、飲食サービス業の事業所構成比が高いため、業種構成比が県別の開業率に影響を与えていることが考えられる。

廃業率が最も高い県は富山県で4.3%であり、茨城県、大阪府と続いている。

第一部の開廃業に関する指標の最後に、休廃業・解散件数の推移について確認する(第1-5-5図)。(株)東京商工リサーチの「2018年「休廃業・解散企業」動向調査」を見ると、経営者の高齢化や後継者不足を背景に休廃業・解散企業は年々増加傾向にあり、3万件台から4万件台に推移している。

第2節 まとめ

足下では、我が国の開業率は上昇傾向、廃業率は減少傾向にある。また、国際的に比較するといずれも相当程度低い水準にあり、併せて開業率・廃業率ともに業種や地域でばらつきがあるといえよう。
全選択
第2部 経営者の世代交代 
第1章 経営資源の引継ぎ

経営者の高齢化が進む中で、第1部で確認したとおり、休廃業・解散件数は増加傾向にあり、中小企業・小規模事業者の数は年々減少している。そのような状況で、我が国経済が持続的に成長するためには、企業がこれまで培ってきた、未来に残すべき価値を見極め、事業や経営資源を次世代に引き継ぐことが重要である。しかしながら、中小企業・小規模事業者が培ってきた事業や、技術・ノウハウや設備などの貴重な経営資源が、次世代に引き継がれることなく散逸してしまう場合もある。

そこで、本章では、経営者が引退するまでの実態と、経営資源を引き継ぐに当たっての課題などを明らかにしていく。

第1節 経営者引退の概観

本節では、まず、第2部で分析する経営者の参入と引退の概観を示す。その上で、特に経営者の引退(事業承継・廃業)の概念の整理を行う。

1 経営者の参入と引退の概観

はじめに、経営者の参入と引退の全体像と、それを分析する背景を示す。

〔1〕経営者の参入と引退の概念

第2-1-1図は、経営者の参入と引退の概念を示している。経営者の参入には、自ら事業を開始する「起業」、他者から事業を引き継ぐ「事業承継」がある。他方、経営者の引退には、他者へ事業を引き継ぐ「事業承継」、事業を停止する「廃業」がある。近年、事業承継が注目されているが、「事業承継」は、経営者の参入と引退が同時に行われていることを指す。

中小企業庁(2018a、2017a、2014)

〔2〕経営の担い手の推移

第2-1-2図は、我が国の企業(個人事業者を含む)の経営の担い手の数の推移を示している。59歳以下の経営の担い手は、1992年から2017年にかけて約45%減少している。他方、60歳以上の経営の担い手は、同じ期間に約25%増加している。経営の担い手の高齢化が進み、2017年時点で、経営の担い手の数は、60歳以上が59歳以下を上回っている。

〔3〕年代別に見た中小企業の経営者年齢の分布

次に、中小企業の経営者の年齢の分布を見ると最も多い経営者の年齢は1995年に47歳だったが、2018年には69歳となっており、経営者年齢の高齢化が進んでいることが分かる(第2-1-3図)。

第2-1-3図の年齢区分が5歳刻みであるため、山が動いているように見えないが、2015年から2018年にかけて、経営者年齢のピークは3歳高齢化している。

今後、経営者の高齢化が進むと、年齢を理由に引退を迎える経営者が増えると予想される。こうした中で、地域社会ひいては日本経済を維持・発展させるためには、新たな経営の担い手の参入や、有用な事業・経営資源を次世代に引き継ぐことが重要になる。

2 経営者引退に伴う経営資源の引継ぎ

〔1〕経営資源引継ぎの概念

第2-1-4図では、経営者引退に伴う経営資源引継ぎの概念について整理している。経営者引退は、事業が継続されるか否かによって「事業承継」と「廃業」に分けられる。また、事業の継続状況とは別に、事業で使用されていた経営資源がどうなったかという観点から捉えた「経営資源の引継ぎ」がある。

(1)「経営資源」と「事業」

「事業承継」、「廃業」、「経営資源の引継ぎ」について整理するに当たり、分類する上での軸となる「経営資源」と「事業」について説明する。

中小企業庁が2016年に策定した事業承継ガイドラインによると、「経営資源」は、「人」、「資産」、「知的資産」に大別できる。具体的には、

「人」… 経営権
「資産」… 株式、事業用資産(設備・不動産)、資金
「知的資産」… ノウハウ、取引先との人脈、顧客情報、知的財産権
などが挙げられている。

中小企業庁(2016a)

事業承継ガイドラインには明記されていないが、「人」には、従業員も含まれると考えられる。

ここでいう「事業」とは、これら「経営資源」を用いて生産活動を行っていることを指す。

(2)事業承継

ここでは、経営者が引退した後も「事業を継続する」ものを「事業承継」としている。「事業を継続する」とは、経営者の引退前後で生産活動が停止することなく連続して「事業」が行われている状態を指す。経営者が引退して生産活動が一時的に停止し、その後、誰かが復活させた場合は継続とはみなさない。

サービスの提供なども含む。

「事業を継続する」場合、事業を行うために必要な「経営資源」は当然引き継がれる。後継者の判断で一部の経営資源を引き継がないケースもあるかもしれないが、「事業承継」する際は少なくとも何らかの「経営資源の引継ぎ」が行われるといえる。

事業承継の類型としては、同ガイドラインで3つが示されている。(以下、同ガイドラインからの引用。I~IIIは第2-1-4図に対応。)

I 親族内承継

現経営者の子をはじめとした親族に承継させる方法である。一般的に他の方法と比べて、内外の関係者から心情的に受け入れられやすいこと、後継者の早期決定により長期の準備期間の確保が可能であること、相続等により財産や株式を後継者に移転できるため所有と経営の一体的な承継が期待できるといったメリットがある。

II 役員・従業員承継

「親族以外」の役員・従業員に承継する方法である。経営者としての能力のある人材を見極めて承継することができること、社内で長期間働いてきた従業員であれば経営方針等の一貫性を保ちやすいといったメリットがある。

III 社外への引継ぎ(M&A等)

株式譲渡や事業譲渡等により承継を行う方法である。親族や社内に適任者がいない場合でも、広く候補者を外部に求めることができ、また、現経営者は会社売却の利益を得ることができる等のメリットがある。事業譲渡には、「事業の一部譲渡」も含まれる。

(3)廃業

ここでの「廃業」とは、経営者が引退した後は、「事業を継続しない」(事業が連続していない)ことを指す。なお、法的に倒産した企業については、本章では分析の対象としていない。

「廃業」した場合でも、個別に経営資源が引き継がれる場合がある。廃業企業からの経営資源の引継ぎに関する先行研究については、井上(2017)がある。この論文の基となっている(株)日本政策金融公庫総合研究所(2017)では、経営資源の譲渡しの定義を「事業をやめたり縮小したりする際に自社が保有している経営資源を、他社や開業予定者、自治体、その他の団体などに、事業に活用してもらうために譲り渡すこと」としている。当該調査の経営資源ごとの引継ぎ状況を見ると、「従業員」、「機械・車両などの設備」、「販売先・受注先」の引継ぎ割合が比較的高い。

このような個別の経営資源の引継ぎの動向について、井上(2017)によれば、「廃業した企業の実に約3割もが経営資源を譲り渡しており、日本全体での譲り渡し社数は、既存企業における譲り渡しを含めると37万社を超えると推計される。また、その結果として、既存企業の1割強が経営資源を譲り受けている。」という。また、経営資源の引継ぎのメリットについては、「経営資源の引き継ぎは円滑な廃業および譲り受け企業の成長を促すうえで有用である。引き継ぎの満足度をみると、約半数の企業が引き継ぎに『満足している』と回答している。他方、引き継いで良かったことが『特にない』という割合は、譲り渡しでは25.7%、譲り受けでは19.3%にとどまっており、多くの企業が引き継ぎによるメリットを享受している。」とある。

これを踏まえ、「廃業」を次の2つに整理した(IV、Vは第2-1-4図に対応)。

IV 経営資源の引継ぎを実施

事業を停止する前後に、自社が保有している経営資源を、他社や開業予定者などへ引継ぎを行う。経営資源を個別に引き継ぐ場合と、複数の経営資源を一体で引き継ぐ場合がある。

V 経営資源を引継ぎせず

事業を停止する前後に、自社が保有している経営資源を、他社や開業予定者などへ引継ぎを行わない。

(4)経営資源の引継ぎ

以上のことから、第2-1-4図のI~IVの場合、「経営資源の引継ぎ」を実施しているといえる。「事業承継」のみならず、「廃業」した企業から個別又は一体で経営資源を引き継ぐ取組も、経営資源を散逸させないことにつながる。

概念整理の最後に、「III社外への引継ぎ(M&A等)」における「事業の一部譲渡」と、「IV経営資源の引継ぎを実施」における「複数の経営資源を一体で引き継ぐ場合」の違いについて事例を用いて説明する。

【複数店舗を運営する家具小売事業者の例】

●営業している家具店のうち1店舗をそのまま譲渡

営業している状態のまま店舗を引き継ぐケースで、事業を継続しているとみなされるため、「III社外への引継ぎ(M&A等)」における「事業の一部譲渡」に該当する。仮に店名が新しくなり販売方法が一新(例えばネット販売に転換)されたとしても、それは以前の店名や販売方法からの変更という形になる。

●営業を停止(閉店)した家具店の経営資源(土地・建物・備品など)をセットで譲渡

生産活動が既に停止しており、「事業」は継続されていないため「IV経営資源の引継ぎを実施」における「複数の経営資源を一体で引き継ぐ場合」に該当する。以前のように家具店として営業するか、別業種(自動車販売店など)での事業のために経営資源を活用するかなど、様々な選択肢がある。

〔2〕調査の概要

経営者引退に伴う経営資源引継ぎの概念を踏まえると、前掲第2-1-4図のI~IVは、次世代に経営資源を引き継いでいる。冒頭で述べた通り、経営資源の散逸を防ぐためには、この取組が重要である。経営資源の引継ぎの実態と課題を把握するため、ここからは特に引退する経営者に着目し、経営者を引退した者を対象とした「中小企業・小規模事業者の次世代への承継及び経営者の引退に関する調査」を用いて、事業承継した経営者、廃業した経営者別に分析していく。

みずほ情報総研(株)が2018年12月に、中小企業・小規模事業者の経営者を引退した50,000人を対象にアンケート調査を実施(回収4,984件、回収率10.0%)。ここでいう「経営者を引退」とは、法人の代表者又は個人事業主をやめたことを指す。本章における分析対象と留意点は以下のとおり。
【分析対象】
〔1〕事業承継した経営者 2,612件
ここでいう「事業承継した経営者」とは、引退後の事業継続について「事業の全部が継続している」、「事業の一部が継続している」と回答した者をいう。
〔2〕廃業した経営者 2,077件
ここでいう「廃業した経営者」とは、引退後の事業継続について「継続していない」と回答した者をいう。
なお、引退後の事業継続について無回答が295件あり。
【留意点】
・上記の〔1〕、〔2〕それぞれ一定の回収数が見込めるように配布先を割付しているものを、集計分析している。
・主に経営者引退時点で80歳以下の者を対象としている。
・主に経営者引退後3年以内の者を対象としている。
・本アンケートにおける「廃業」には、法的な倒産は原則含まれていない。

第2節では、事業承継について、承継の形態(第2-1-4図のI~III)別の状況や、より効果的な承継とするための後継者教育の取組を明らかにしていく。

第3節では、廃業企業からの経営資源の引継ぎ(第2-1-4図のIV)について、廃業を決断した時点でどのような経営資源を保有していたか、廃業に際しての課題、引退に向けた準備期間との関係などを分析していく。

第4節では、事業承継した経営者、廃業した経営者それぞれの引退前後の実態を分析し、課題などを明らかにしていく。

また、経営資源を譲り受ける側については、第2章で他の調査を用いて分析する。
全選択
第2節 事業承継

円滑な事業承継の重要性については、「事業承継ガイドライン」で詳しく述べられている。それを踏まえ、本節では、事業承継の課題や、後継者教育の取組、事業承継が企業のパフォーマンスに与える効果を明らかにしていく。

1 事業承継した経営者の実態と取組

ここでは、「事業承継した経営者」への調査を基に、事業承継の形態別に、事業承継時の課題や事業用資産の引継ぎの実態について分析する。

〔1〕事業承継の概観

第2-1-5図は、引退した経営者と、事業を引き継いだ後継者との関係を示している。親族内承継が過半を占めており、その大半は子供(男性)への承継である。他方、親族外の承継も3割を超え、事業承継の有力な選択肢になっている。

第2-1-6図は、事業承継の形態別に、引き継いだ事業を示している。これを見ると、全体では約9割が、事業の全部を引き継いでいる。そのうち、社外への承継では、事業の一部を引き継ぐ者の割合がやや高い。

第2-1-7図は、事業承継の形態別に、後継者を決定して実際に引き継ぐまでの期間を示したものである。親族内承継の場合、長い期間をかけて引き継ぐ傾向にあるが、社外への承継でも、約3割は引継ぎに1年以上の時間をかけている。

第2-1-8図は、後継者を決定し、事業を引き継ぐ上で苦労した点を示したものである。役員・従業員への承継では、「後継者の了承を得ること」、社外への承継では、「取引先との関係維持」、「後継者を探すこと」に苦労したとする回答が多い。これを見ると、事業承継の形態別で、事業を引き継ぐ上での苦労が異なることが分かる。また全体について見ると、「特になし」という回答が最も多いが、「取引先との関係維持」や「後継者に経営状況を詳細に伝えること」など、承継前に後継者に引き継ぐための取組や教育が必要な事項も比較的高い割合になっている。

〔2〕事業承継時の事業用資産引継ぎの実態

事業承継の形態別に、事業用資産の引継ぎの状況を見ると、全体では約6割が「事業用資産の全部を引き継いだ」と回答している(第2-1-9図)。親族内承継では、他の形態に比べて、「事業用資産の全部を引き継いだ」割合が低いことが分かる。

第2-1-10図は、事業承継の形態別に、後継者に全部の事業用資産を引き継いでいない理由を見たものである。

親族内承継では、「贈与税の負担が大きい」と回答した割合が高い。これは、親族内承継では無償で引き継ぐことが多く、生前贈与に当たって税負担が課題になっていると考えられる。この課題に対し、2018年度に法人版の事業承継税制の特例措置が創設され、2019年度からは個人版の事業承継税制の特例措置が創設されている。

詳細はコラム2-1-1及びコラム2-1-2を参照。

役員・従業員への承継では、「後継者が買い取る資金を用意できない」と回答した割合が高い。経営を引き継いだ後、事業用資産を全て後継者に引き継ぐためには、後継者側の資金の準備が必要になる。後継者が早めに金融機関などに相談を始められるよう、経営者として早めに意思決定を行い、その旨を後継者に伝えることが、将来の安定した事業継続につながると考えられる。

社外への承継では、「後継者が引継ぎを希望しない資産がある」と回答した割合が高い。後継者が今後の経営方針を検討する上で、引き継ぐ事業用資産を選択していると推察される。

2 後継者教育

〔1〕後継者教育の取組

次に、円滑な事業承継にとって重要な後継者教育について、取組の効果などを明らかにしていく。中小企業庁が2017年4月に策定した「事業承継マニュアル」においても、次期経営者として必要な実務能力、心構えを習得するための後継者教育の重要性について述べられている。

まず、事業承継した経営者が後継者を決定する上で重視した資質・能力について見たものが第2-1-11図である。重視した資質・能力としては、「自社の事業に関する専門知識」や「自社の事業に関する実務経験」を回答する割合が高く、自社の事業への理解を重視していることが分かる。ただし、最も重視されている資質・能力は、「経営に対する意欲・覚悟」という心構えの部分であることが見て取れる。

第2-1-12図は、前掲第2-1-11図で見た後継者を決定する上で重視した資質・能力を、事業承継の形態別に示している。

親族内承継では、「血縁関係」と回答した割合が高いが、それ以上に、「自社の事業に関する専門知識」、「自社の事業に関する実務経験」が高く、知識や経験がより重視されていることが分かる。

役員・従業員承継では、他の形態と比べ、「社内でのコミュニケーション能力(従業員からの信頼、リーダーシップ、統率力等)」と回答した割合が高い。役員・従業員から経営者となる場合、将来のビジョンを打ち出す力や、組織のマネジメント能力、信頼に足る人格を有するかどうかを重視していると考えられる。

社外への承継では、他の形態と比べ、「自社の事業に関する専門知識」や「自社の事業に関する実務経験」を回答する割合は低く、「経営に対する意欲・覚悟」を重視する傾向にあると考えられる。

経営者が後継者に対し、意識的な後継者教育を行ったかどうかを事業承継の形態別に示したものが第2-1-13図である。親族内承継及び役員・従業員承継では、半数近くが意識的な後継者教育を行っていた。社外への承継でも約3割は意識した後継者教育を行っており、経営者の外部招聘やM&Aによる引継ぎであっても、後継者教育を行う者が一定数いることが分かった。

第2-1-14図は、実施した後継者教育の内容について見たものである。「自社事業の技術・ノウハウについて社内で教育を行った」、「取引先に顔つなぎを行った」、「経営について社内で教育を行った」など、事業に直接関わる内容のものが、実施割合が高かった。最も有効だった後継者教育の内容についても、社内教育、取引先への顔つなぎなどの回答が多かった。

実施した内容別に、回答企業のうち最も有効と回答した企業の割合を見ると、「同業他社で勤務を経験させた」が最も割合が高かった。

次に、事業承継の形態別に、実施した後継者教育の内容を見たものが第2-1-15図である。

親族外承継(役員・従業員承継及び社外への承継)は、親族内承継に比べ、「経営について社内で教育を行った」、「自社事業の技術・ノウハウについて社内で教育を行った」など、社内教育の実施割合が高かった。他方、親族内承継は、親族外承継に比べ、同業他社での勤務や資格の取得を含め、社外における教育の割合が高かった。

第2-1-16図は、特に、最も有効だった後継者教育の内容について、事業承継の形態別に示している。

親族内承継では、他の形態と比べて、「同業他社で勤務を経験させた」ことが、最も有効だったとした者が多い。長期的視点に立ち、親族の後継者に同業他社で経験を積んでもらい、それを自社に還元することが有効だとした経営者が多いと推察される。

役員・従業員承継では、「経営について社内で教育を行った」ことが最も有効だとする割合が高かった。役員・従業員に引き継ぐ場合、経営に関する教育は、社内で経営者から後継者に直接行うことが有効だと考える経営者が多いと推察される。

社外への承継では、「自社事業の技術・ノウハウについて社内で教育を行った」、「取引先に顔つなぎを行った」ことを最も有効だった後継者教育とした割合が高かった。社外の人材に対しては、直接自社事業に関わる内容の教育が効果的だったと考える経営者が多い。

〔2〕現在の後継者の働きぶりに対する満足度

第2-1-17図は、現在の後継者の働きぶりに対する満足度を見たものである。全体で見ると、7割近くが「満足」又は「やや満足」としている。また、親族内承継は、後継者の働きぶりに対する満足度が、他の承継の形態に比べ高い。

ただし、最も重視した後継者の資質・能力別に、現在の後継者の働きぶりに対する満足度について見ると、「血縁関係」を最も重視した者は、他の資質・能力を重視した場合に比べ、「満足」と回答した割合が低い(第2-1-18図)。親族内承継を重視するにしても、血縁関係以外の、後継者の資質・能力を重視して承継することが、働きぶりへの満足に結びつく傾向が高いといえよう。

また、「一般的な経営に関する知識」を最も重視した者は、他の資質・能力を重視した場合に比べ、「満足」、「やや満足」と回答した割合が低い。一般的な知識よりも、業務に関する専門知識、実務経験、人脈や経営に対する意欲・覚悟を重視したほうが、後継者の働きぶりに対する満足度が高まる可能性があると考えられる。

次に、第2-1-19図は、意識的な後継者教育の有無別に現在の後継者の働きぶりに対する満足度を示したものである。意識的な後継者教育を行った者の方が、現在の後継者の働きぶりに対する満足度は高い。

さらに、最も有効だったとした後継者教育別に、現在の後継者の働きぶりに対する満足度を見たものが第2-1-20図である。「社外セミナー等へ参加させた」や「取引先に顔つなぎを行った」などの比較的短期間で実施可能なものに比べ、「自社事業に関わる勉強を行う学校に通わせた」や「同業他社で勤務を経験させた」などの長い時間を要すると考えられる教育を実施した場合の方が、現在の後継者の働きぶりに対し「満足」と感じた割合が高い。効果的な後継者教育には、時間をかける必要があるといえよう。

次に、第2-1-21図では、後継者決定から実際に引き継ぐまでの期間別に、意識的な後継者教育実施の有無を示している。また、第2-1-22図は、経営者引退を決断してから実際に引退するまでの期間別に、意識的な後継者教育実施の有無を示している。

後継者決定後、引き継ぐまでの期間が長いほど、また、経営者の引退決断から引き継ぐまでの期間が長いほど、意識的な後継者教育の実施割合が高い傾向がある。後継者教育に十分な時間をかけるには、経営者としての引退や後継者の決定に関して、より早期に決断を行うことが大切だといえよう。

3 経営者交代と企業のパフォーマンス

これまで、事業承継を契機として、企業の業績が改善する可能性が指摘されてきた。例えば、2018年版小規模企業白書によれば、事業を承継した経営者と60歳以上の経営者について、直近3年間の経常利益額の動向を比較しており、前者の方が「増加傾向」と回答した者の割合(29.4%)は、後者で「増加傾向」と回答した割合(17.9%)を上回っている。

本分析は、日本大学経済学部の鶴田大輔教授の協力の下で行った。

2018年版小規模企業白書 第2部第4章第3節2.第2-4-13図

しかし、当然ながら業績には事業承継以外の要因も影響しており、業績が改善する見込みがあるから事業を承継できたと考えることも可能であろう。事業承継が業績に与える影響を把握するには、その他の要因による業績への影響をできる限り排除することが望ましい。そこで、以下では、第1部第3章第3節でも利用した「傾向スコアマッチング」及び「差の差分析」の手法を利用して、事業承継が業績に与える影響について分析する。ここでも、第1部第3章と同じCRDデータを利用する。経営者が若返ることによる事業拡大意欲に関連する指標として、売上高、総資産、ROA、従業員数を取り上げ、事業承継した企業と承継していない企業の間で成長率を比較する。

傾向スコアマッチングの詳細については、付注1-3-3を参照されたい。

また、一般的に、経営者の年齢が低くなるほど、長期的な視野に立って経営を行って事業を拡大しようとする意向が強くなり、その結果、売上高や経常利益が増加すると見込む経営者の割合が増加すると言われている(例えば、2016年版中小企業白書)。その結果、事業承継後の新たな経営者の年齢が若いほど、業績拡大意欲も強く、実際に業績を拡大するケースも増えると期待される。そこで、2011年度に行われた事業承継について、承継後の経営者の年齢により30代以下、40代、50代の場合に分けて、上記と同様の分析を行う。

2016年版中小企業白書 第2部第6章第2節2.コラム2-6-8.

今回の分析では、売上高、総資産、ROA、従業員数以外の指標として、営業利益、長短借入金、現預金、有形固定資産、棚卸資産、売掛債権、労働生産性についても、それぞれ分析している(詳細は付注1-3-3 付図5~9を参照)。

第2-1-23図は、事業承継した企業と事業承継していない企業の売上高成長率を比較したものである。事業承継した企業は、承継の翌年から5年後までの間、事業承継していない企業と比較して成長率が高く、概ね統計的に有意な差が確認された。また、事業承継年から年が経つにつれて差が拡大しているため、事業承継後に売上高が成長することが多いと考えられる。

また、承継後の新経営者の年代別の効果を比較すると、事業を引き継いだ経営者が30代以下、40代の場合、事業承継の翌年から5年後までの間、事業承継していない企業と比較して売上高成長率を押し上げる効果が顕著である(第2-1-24図)。しかし、50代への事業承継になると、事業承継から2年後、3年後を除き、有意な効果が確認できなかった。

続いて、総資産成長率について比較を行った(第2-1-25図)。2010年度に事業承継した企業は承継後全ての年で、2009年度、2011年度に事業承継した企業も5年中3年で、事業承継していない企業の総資産成長率を有意に上回っており、総資産成長率についても事業承継後によりおおむね上昇すると考えられる。

新経営者の年代別に見ると、30代以下への事業承継では承継の翌年から成長率を押し上げる効果が明確に観察されており、ほとんど効果が確認できない40代、50代への事業承継とは対照的な結果となっている(第2-1-26図)。

続いて、ROAに対する事業承継の効果を確認する(第2-1-27図)。ROAに関しては、事業承継を行った企業と行っていない企業の間に有意な差が観察されることは少なかった。また、新経営者の年代別の効果を見ても、若い世代ほど、事業承継していない企業に対してROAが高くなるという傾向は観察されなかった(第2-1-28図)。

最後に、従業員数成長率への影響を比較した(第2-1-29図)。2009年度と2010年度に事業承継した企業について、事業承継していない企業と比較して従業員数成長率が有意に上回るケースはなかった。しかし、2011年度に事業承継した企業については、事業承継から4年後以降、事業承継していない企業を上回る従業員成長率を記録している。また、新経営者の年代別効果を見ても、30代以下、40代への事業承継では、従業者数の成長率が事業承継していない企業を有意に上回っており、事業承継が従業員数の成長率を押し上げる一定の効果が見られた(第2-1-30図)。

以上の結果より、事業承継は、他の要因を制御した上でも、企業の売上高や総資産を押し上げる効果があり、従業員数を押し上げる場合もあることが確認できた。また、30代以下、40代の経営者に事業承継を行う方が、50代への事業承継と比較して売上高などを押し上げる効果をもたらすことも分かった。

本項の冒頭で述べた、事業承継により業績が改善する、事業を引き継ぐ経営者の年齢が若いほど業績が改善する、といったこれまでの通説は、いずれもおおむね正しいといえることが分かった。

4 まとめ

第2節では、事業承継についての取組や効果などを見てきた。

事業承継の形態別に見ると、後継者を決定する上で重視した資質・能力や、有効だと感じた後継者教育に違いがあることが分かった。これを踏まえると、これから事業承継を検討する経営者は、後継者探しや後継者教育と一口に言っても、自分の狙いにあった方法を検討することが大切だと考えられる。

また、意識的な後継者教育、特に教育に時間を要すると考えられる取組ほど、後継者のパフォーマンス向上につながりやすいことが分かった。意識的な後継者教育を行うためには、十分な時間が必要であり、早めの決断が肝要だと言える。

事業承継後の企業のパフォーマンスについて見ると、事業承継を実施していない企業に比べ、売上高や資産が増加傾向にあることが分かった。事業承継は、企業の収益状況や財務状況向上に貢献する傾向があると考えられる

早めに事業承継を見据え準備し、効果的な引継ぎを円滑に行っていくことが我が国の成長につながるといえよう。
全選択
第3節 廃業とそれに伴う経営資源の引継ぎ

ここからは再度「中小企業・小規模事業者の次世代への承継及び経営者の引退に関する調査」を用いて、廃業(事業を停止)した企業からも経営資源が次世代へ引き継がれていることを確認し、さらに引継ぎを円滑化するための方策を検討する。

1 廃業した企業からの経営資源の引継ぎの実態

第1節でも述べたとおり、廃業企業から他社に経営資源を引き継ぐ取組は、経営資源を譲り渡す側、譲り受ける側双方に利点がある。「廃業した経営者」への調査を基に、経営資源の引継ぎの実態を明らかにし、引継ぎを円滑化するための方策を検討する。

〔1〕事業を継続しなかった理由

第2-1-31図は、廃業した経営者が事業を継続しなかった理由について見たものである。事業を継続しなかった理由としては、「もともと自分の代で畳むつもりだった」が最も多い。廃業した経営者の半数以上は、事業を次世代へ引き継ぐ意思がなかったことが分かる。

次いで、「事業の将来性が見通せなかった」、「資質がある後継者候補がいなかった」、「事業に引継ぐ価値があると思えなかった」、「事業の足下の収益力が低かった」とする回答が多い。これらを選択した企業の中には、早期の経営改善の取組や後継者探し・育成の取組、又はより幅広いM&Aの可能性の模索をしていれば、事業を引き継ぐ選択肢があった可能性もある。

〔2〕廃業に向けた取組の中で苦労したこと

第2-1-32図は、廃業に向けた取組の中で苦労したことを示したものである。約4割は「特になし」だが、6割以上は何らかの取組で苦労している。「顧客や販売先への説明」、「従業員の処遇」、「資産売却先の確保」に苦労したとする回答が多い。

これら「顧客・販売先」、「従業員」、「資産」などは、第1節で触れたように、廃業時にも個別に他社へ引き継ぐことができる経営資源である。それぞれ引き継ぐためにも、苦労があると考えられる。以下では、こうした廃業企業からの経営資源の引継ぎについて、経営資源ごとに実態や課題を明らかにする。

〔3〕従業員の引継ぎ

まず、廃業する企業からの再就職・独立を希望する従業員の実態や課題について見ることとする。

第2-1-33図は、経営者が引退を決断してから引退するまでの間に再就職・独立を希望する従業員がいたかを示している。

廃業した企業のうち4割弱に再就職・独立を希望する従業員がおり、そのうち経営者の支援により再就職・独立が決まった従業員が1人以上いた割合は約半分となっている。

次に従業員の再就職先について見ると、同業種が中心となっていることが分かる(第2-1-34図)。

〔4〕販売先・顧客の引継ぎ

次に販売先・顧客の引継ぎについて見ていく。

第2-1-35図は、経営者の引退決断時点における継続的な取引のある販売先・顧客の有無と、その引継ぎの有無を示したものである。約6割の廃業企業が、継続的に取引のある販売先・顧客を有しており、そのうち、65.6%が他者に引き継いでいることが分かる。

引継ぎを実施した販売先・顧客について、どのような先に引き継いだかを見たものが第2-1-36図である。従業員の引継ぎと同様、同業種への引継ぎが中心となっている。

販売先・顧客の引継ぎをしなかった理由を見たものが第2-1-37図である。「特に理由がない」が最も多く、次いで「引継ぎをするという発想がなかった」が多い。販売先・顧客を他者に引き継ぐという選択肢が念頭にない人が多いことが分かる。

〔5〕設備の引継ぎ

次に事業用設備の引継ぎについて見ていく。

第2-1-38図は、経営者引退決断時点における事業用設備の所有の有無と、事業用設備の引継ぎについて見たものである。約6割の廃業企業が、事業用設備を所有しており、そのうち、53.6%が他者に引き継いでいることが分かる。

引継ぎを実施した設備について、どのような先に引き継いだかを見たものが第2-1-39図である。中古設備取扱業者へ売却するよりも、同業種への引継ぎが中心となっていることが分かる。

設備の引継ぎをしなかった理由を確認したものが第2-1-40図である。「引継ぐ価値があるとは思わなかった」、「引継ぎ先が見つからなかった」とする回答が多い。

〔6〕不動産の引継ぎ

次に事業用不動産の引継ぎについて見ていく。

第2-1-41図は、経営者引退決断時点における事業用不動産の所有の有無と、事業用不動産の引継ぎについて見たものである。36.1%の廃業企業が、事業用不動産を所有しており、そのうち、48.2%が他者に引き継いでいることが分かる。

次に、第2-1-42図で事業用不動産の引継ぎ先について見ると、「不動産会社」、「経営者の家族・親族」、「代表者個人」に引き継いでいる割合が高く、これらの次の用途が事業用なのか非事業用なのかは定かではない。事業で活用することを目的に、直接他の企業に引き継がれる割合は低い。

不動産の引継ぎをしなかった理由を確認したものが第2-1-43図である。これを見ると、事業用不動産が自宅と一体になっている場合が多いことが分かる。また、「引継ぎ先が見つからなかった」、「引継ぐ価値があるとは思わなかった」とする回答も一定数ある。引継ぎ先のマッチングや、価格算定の支援があれば、引き継げた者もいた可能性がある。

〔7〕廃業にかかる費用と経営資源引継ぎの対価

ここまで経営資源の引継ぎの実態を確認し、経営資源の引継ぎは少なからず実施されており、有償で引き継ぐケースも一定数あることが分かった。経営資源の引継ぎを有償で行えば、廃業時の費用を賄ったり、廃業費用を抑えたりすることもできる。ここでは廃業に際してかかる費用と、経営資源の引継ぎによる対価について見ていく。

まず第2-1-44図では、廃業のために必要となった費用の内容を示している。「登記や法手続などの費用」が最も多く、次いで「設備の処分費用」、「従業員の退職金」、「在庫処分費用」の順となっており、廃業に当たって様々な内容の費用が発生することが分かる。

次に発生した廃業の費用総額について見たものが第2-1-45図である。36.2%が廃業に当たり、100万円以上の費用がかかっている。

第2-1-46図は、何らかの経営資源を引き継いだ者について、経営資源を引き継いだ際の対価の総額を見たものである。何らかの経営資源を有償で引き継いだ者が60.8%おり、その中でも、100万円以上の対価を受け取った者は44.1%と4割を超える。廃業時には様々な費用が発生するが、経営資源を有償で引き継ぐことができれば、廃業費用の一部を賄うこともできるだろう。

2 休廃業・解散した企業の収益状況

前項では、廃業企業からの経営資源の引継ぎについて見てきた。廃業する場合にも費用がかかる(前掲第2-1-45図)ことを踏まえれば、費用を負担する余裕があるうちに廃業を決断し、準備することが望ましい。特に、もし廃業に至るまでに業績の悪化が見込まれる場合には、決断の迅速さが重要となる。この点を確認するため、廃業企業の収益状況の推移を明らかにする。

第1部では、開廃業の動向について、「経済センサス」、「雇用保険事業年報」の2つの統計を用いて確認してきたが、廃業企業の収益状況については、公的統計からだけでは詳細に把握することが難しい。そこで、(株)東京商工リサーチ「企業情報ファイル」(2008~2016年)などを活用し、休廃業・解散した企業の収益について分析する。

ここでいう休廃業とは、特段の手続きをとらず資産が負債を上回る資産超過状態で事業を停止することをいう。解散とは、事業を停止し、企業の法人格を消滅させるために必要な清算手続きに入った状態になることをいう。基本的には、資産超過状態だが、解散後に債務超過状態であることが判明し、倒産として再集計されることもある。また、解散は、大半が廃業を目的とするものだが、一部にM&Aや合併といった組織再編行為が含まれていることに留意が必要である。

〔1〕休廃業・解散件数の推移

まず、第2-1-47図では、年間の休廃業・解散件数の推移を示している。休廃業・解散件数は増加傾向にあり、中小企業の経営者の高齢化などにより事業継続を断念せざるを得ない企業が増えていることが原因と推察される。

〔2〕休廃業・解散企業の収益状況の推移

次に、中小企業が、どのような経過をたどり、休廃業・解散に至るかを確認するために、2016年、2013年、2010年に休廃業・解散した中小企業が、その前年までにどのような収益状況で推移したかに着目し、分析していく。

第2-1-48図は、休廃業・解散企業の売上高の中央値の推移である。休廃業・解散する企業は、中小企業全体に比べ、売上高の水準は4割に満たない程度となっている。また、休廃業・解散に至るまでに、徐々に事業を縮小させていることが分かる。廃業準備のために、売上を減少させていっている場合も考えられるが、意図せずに売上高の減少を続けた後に、休廃業・解散する企業もいるだろう。

(株)東京商工リサーチの「企業情報ファイル」に収録される企業数は近年増加傾向にあり、新たに収録される企業は相対的に売上高の小さな企業が多いため、中小企業全体の売上高の中央値の推移が減少傾向となる点、留意する必要がある。中小企業全体では、2007年から2015年にかけて売上高は33%減少しているが、2016年に休廃業・解散した企業では、同期間で55%減少している。

第2-1-49図では、休廃業・解散企業の純利益の中央値の推移を見ている。全体として、中小企業の中央値に比べ、休廃業・解散した企業の純利益は低い水準となっている。

また、2013年、2010年に休廃業・解散した企業は、減益を続けた後に事業を停止している。2016年に休廃業・解散した企業は、中小企業の中央値の純利益が増加傾向にある中、横ばいの純利益で推移を続けた後に、事業を停止している。

収益状況が、徐々に苦しくなった後に、休廃業・解散を決断していると考えられる。

第2-1-50図は、休廃業・解散企業の売上高純利益率の中央値の推移を示している。

2016年、2013年に休廃業・解散した企業の、2007年時点の売上高純利益率は、むしろ中小企業の中央値よりも高い水準にある。その後、徐々に、中小企業全体との差が開く形で低下していき、休廃業・解散するに至っている。

〔3〕2016年に休廃業・解散した企業の収益分布の推移

ここまで、中央値の推移を見てきたが、中央値のみでは全体像を捉えきれない。そこでここからは、2016年に休廃業・解散した中小企業の売上高や利益の分布状況の動きを明らかにする。

第2-1-51図は、2016年休廃業・解散企業の、2007年時点と2015年時点の売上高の分布の推移について示している。

2016年休廃業・解散企業について、0円以上1,000万円未満、に位置する企業の割合は、2007年から廃業前年の2015年にかけて、大きく増加している。休廃業・解散する直前に、売上高が小さくなる傾向にあることが分かる。

他方、1億円以上10億円未満に位置する企業は、2007年に比べ2015年では減少しているが、なお12.7%存在し、売上規模の大きい休廃業・解散企業が一定数いることが分かる。

前述のとおり、「企業情報ファイル」に収録される企業数は近年増加傾向にあり、新たに収録される企業は相対的に売上高の小さな企業が多い。そのため、中小企業全体の売上高は2007年に比べ2015年の方が低い水準の割合が大きくなっている。

第2-1-52図は、2016年休廃業・解散企業の純利益の分布の推移について示している。

2016年休廃業・解散企業について、純利益が▲1,000万円以上0円未満である企業の割合は、2007年に比べ、2015年が大きく増加している。中小企業全体の赤字企業の割合が微増にとどまるのに対し、休廃業・解散する企業は、休廃業・解散の前年に赤字になっている企業が多いことが分かる。廃業の準備には時間がかかるとはいえ、長い時間をかけて準備をするよりも、赤字状態が続き資産を大きく減少させてしまう前に、廃業することが望ましい場合もあると考えられる。

他方、休廃業・解散する前年の2015年の時点で、66.4%が黒字又は利益0円となっている。利益0円と回答した企業が一定数いることを勘案しても、直前まで黒字の状況で休廃業・解散する企業の方が多い。こうした未来に残す価値のある事業や経営資源を有する企業に対して、事業承継や経営資源の引継ぎの支援をしていくことは重要といえよう。

第2-1-53図は、2016年休廃業・解散企業の売上高純利益率の分布の推移を見ている。

2016年休廃業・解散企業について、売上高純利益率が▲5%未満である企業の割合は、2007年から2015年にかけて大きく増えている。休廃業・解散に至るまでに、業績が特に厳しくなった企業がいたことが分かる。

他方、2016年休廃業・解散企業について、利益率が10%以上の企業の割合も、2007年に比べ、2015年の方が増えている。2015年に10%以上であった企業は、中小企業全体(2015年)の割合よりも高い。収益状況が好調な状態で、休廃業・解散する企業も一定程度存在することが分かる。

休廃業・解散する直前の中小企業の収益状況は、二極化しているといえよう。

3 まとめ

本節では、まず第1項で、廃業企業からの経営資源の引継ぎについて見てきた。

廃業に向けた取組の中で苦労したことは、「販売先・顧客」、「従業員」、「仕入先」、「資産」などの経営資源の引継ぎに関わるものが多かった。

廃業企業からの経営資源の引継ぎの実績については、「従業員」、「販売先・顧客」、「設備」、「事業用不動産」について、該当する経営資源を保有する企業のうち、約半数が他者に引き継げていることが分かった。なお、不動産については、親族への引継ぎが多く、事業用として引き継がれた割合は、他の経営資源に比べて低かった。

他方、廃業に当たって経営資源を引き継いでいない経営者について、引き継がなかった理由を見ると、経営資源ごとに異なるものの、「引継ぎするという発想がなかった」、「引継ぐ価値があるとは思わなかった」、「引継ぎ先が見つからなかった」とする回答が多く見られた。有償で経営資源を引き継げば対価を廃業費用にも充てられるため、経営資源の引継ぎを検討する上での価格算定、経営資源のマッチング、経営資源の引継ぎという選択肢があることの周知などの支援ニーズがあると考えられる。

第2項では、休廃業・解散企業の収益状況の推移を分析した。これらの企業の利益率は解散などの数年前までは中小企業全体に遜色ない水準だが、徐々に利益率を減少させ、休廃業・解散するに至る傾向にあることが分かった。収益状況が悪化していく前に、早めに事業承継を見据えた経営改革又は廃業の準備をすることが重要だといえよう。
全選択
第4節 経営者引退の実態

第2節では事業承継に向けた取組について、第3節では廃業とそれに伴う経営資源の引継ぎの取組について詳しく分析してきた。では、経営者が引退に向けて事業承継又は廃業を選択することで、どのような課題に直面し、その解決に向けてどのように取り組んだのであろうか。また、引退した後はどのような生活になるのであろうか。そこで、本節では、経営者引退を決断した時点での事業の状況や、引退に際しての課題、課題克服に向けての取組、引退後の生活について、「事業承継した経営者」、「廃業した経営者」別に見ていく。

1 経営者引退前の状況と取組

〔1〕経営者引退決断時の事業内容

まず、経営者を引退することを決断した時点での、売上高や利益の傾向、資産状況について比較する。

第2-1-54図は、経営者引退決断前3年間の売上高の傾向を示している。事業承継を選択した企業では増加又は横ばいと回答した経営者の割合が3/4を超える一方、廃業した経営者の7割以上が、売上高が減少傾向にある中で、経営者引退を決断している。

経営者が引退を決断した時の営業利益の傾向について示したものが第2-1-55図である。事業承継した経営者は、約2/3が2期以上連続黒字の状況で経営者引退を決断している。他方、廃業した経営者は、約半数が2期以上連続赤字となった末に経営者引退を決断している一方、約半数は、直近2年間のうち少なくとも1年が黒字であったにもかかわらず経営者引退を決断していることが分かる。

経営者引退決断時の事業資産と負債の状況について見ると、廃業した経営者の約3割が負債超過の状況で、経営者引退を決断している(第2-1-56図)。

〔2〕引退決断時の事業継続の意向

次に引退決断時の事業継続の意向を見る(第2-1-57図)。経営者引退を決断した時点で事業継続を検討していた経営者の9割以上が、実際に事業の引継ぎを行っており、廃業を検討していた経営者の9割以上が実際に廃業している。他方、引退決断時には廃業を検討していた者の中にも、事業の一部承継を実施した経営者が一定数いることが分かる。

〔3〕経営者引退を決断した理由

続いて、経営者引退を決断した理由を示す(第2-1-58図)。

事業承継した経営者が引退を決断した理由は、「後継者の決定」、「後継者の成熟」が多い。後継者に引き継ぐ目途がついてから、自身の引退を決断する者が多いと考えられる。

他方、廃業した経営者の引退決断理由は、「業績の悪化(事業の見通しが立たない)」が多く、第3節で分析したように業績が低下してから廃業に追い込まれるケースが少なからずあると思われる。

両者に共通する引退決断理由は、「経営者本人の高齢化・健康上の理由」、「想定引退年齢への到達」とした者が多い。

〔4〕経営者引退の準備期間

ここでは、経営者引退の準備期間について見ていく。

経営者引退の準備期間を、「経営者引退を決断してから、実際に引退するまでの期間」として示したものが、第2-1-59図である。

事業承継した経営者に比べ、廃業した経営者の方が、引退するまでの準備期間が短い傾向にある。準備期間が1年未満と短い場合が、事業承継した経営者では33.9%であるのに対し、廃業した経営者では43.5%となっている。

第2-1-60図は、経営者引退の準備期間別の過不足感について見ている。

事業承継した経営者、廃業した経営者ともにおおむね準備期間が短いほど、「時間が足りなかった」とする割合が多い。

〔5〕経営者引退の課題と相談相手

経営者引退に向けて、自身や周りに及ぼす影響についての心配事は様々である。ここでは、実際に引退した経営者の課題や取組を明らかにしていく。

まずは、事業承継した経営者が、経営者引退決断時に何を懸念し、その後、引退に際し何が問題になったかについて見ていく(第2-1-61図)。

懸念事項は、経営者自身については、「自身の収入の減少」や「引退後の時間の使い方」が多く、周囲については、「後継者の経営能力」、「従業員への影響」、「顧客や販売・受注先への影響」が多かった。他方、実際に問題になったこととしては、懸念事項と比較すると、「自身の収入の減少」の割合は増加するが、「後継者の経営能力」や「従業員への影響」、「顧客や販売・受注先への影響」は大きく減少している。引退に向けた準備は重要である一方、事業承継前の懸念事項は実際には顕在化しないこともあるため、過度な心配は不要ともいえるだろう。

続いて、廃業した経営者が経営者引退決断時に懸念したこと、その後、引退に際し問題になったことを見ていく(第2-1-62図)。

実際に問題になったこととしては、「自身の収入の減少」が最も多い。「顧客や販売・受注先への影響」、「従業員への影響」は、経営者引退決断時に懸念していた割合に比べ、実際に問題になったとする割合は低かった。第3節で見た、経営資源の引継ぎの取組などにより、こうした懸念は軽減される場合があるだろう。

次に、経営者が引退に向けて、相談した相手について示したものが第2-1-63図である。

事業承継した経営者、廃業した経営者ともに、「家族・親族」や「後継者」など、関係が近しい相手への相談が中心となっている。「外部の専門機関・専門家」は3番目である。

相談した「外部の専門機関・専門家」について、その内訳を確認していく(第2-1-64図)。

これを見ると、事業承継や廃業にかかる手続きを行う上で接点の多い「公認会計士・税理士」を相談相手とする割合が最も高い。次いで、「取引先金融機関」への相談が多い。他の専門機関・専門家への相談は、それほど行われていない。経営者引退決断時の懸念事項が様々あることは前掲第2-1-61図及び第2-1-62図で見たとおりであり、それを解決するためには、それぞれの懸念事項に応じた専門機関・専門家の助力が重要であると考えられる。

次に、第2-1-65図では、専門機関・専門家に相談したことで最も役に立ったことについて、前掲第2-1-64図で割合の高かった専門機関・専門家別に見ている。

各専門機関・専門家に共通して、「引退するまでの手順や計画を整理できた」、「事業継続の可否を決定することができた」とする割合が高い。

「事業の引継ぎ先を見つけることができた」ことを役立ったとした回答が多かった専門機関・専門家は、「取引先金融機関」と「事業引継ぎ支援センター」であった。これらは、事業承継を検討する上で、有効な相談先だといえよう。

「税の手続きを知ることができた」に対しては「公認会計士・税理士」、「後継者を確保できた」に対しては「商工会議所・商工会」、「借入金の返済方法を相談できた」に対しては「弁護士」と回答する割合が高かった。それぞれ得意とする相談内容が異なると考えられる。

2 経営者引退に際した借入金の状況

〔1〕無借金企業の割合

経営者が引退を決断してから、実際に引退するまでの期間における借入金の状況について明らかにしていく。

第1章で、中小企業向け貸出金の推移(第1-1-18図)について見たが、ここで無借金企業の割合の推移についても財務省「法人企業統計調査年報」を用いて確認する(第2-1-66図)。

無借金の中小企業の割合は2000年代まで増加した後横ばい傾向にあり、2017年度では34.2%の中小企業が無借金となっている。

〔2〕経営者引退に際した借入金の状況

次に、経営者引退に際した借入金の状況について見ていく。

企業と経営者個人に分けて聞いている内容も複数あるため、この項では個人事業者を除き、法人企業のみを集計している。

はじめに、経営者が引退を決断した時点の、事業に関する金融機関からの借入金の状況について見る(第2-1-67図)と、事業承継した企業のうち、44.5%が無借金となっており、第2-1-66図で見た中小企業全体の割合よりも高い。さらに、廃業した企業が借入金を有する割合は22.7%にとどまっている。これは、経営者引退を決断する前に、借入金を完済した企業が多いためと推察される。なお、事業承継した企業の中には、借入金を完済できないことを理由に、廃業を選択できなかった企業もいる可能性が考えられる。

次に、経営者を引退するまでの、事業に関する金融機関からの借入金の返済原資について見たものが第2-1-68図である。

事業承継した企業については、「事業からの収益」が大半である。

他方、廃業した企業は、「経営者個人の貯蓄、資産」を原資とした返済が最も多く、事業承継した企業と比較すると、「家族の貯蓄、資産」の割合も高い。

経営者引退を決断した時点の借入金が、経営者引退時点で残っているかを見たものが第2-1-69図である。事業承継した企業は、そのまま引き継がれることがほとんどである。他方、廃業した企業は、経営者引退を決断した時点で借入金を有する者のうち、過半数が完済しているが、約4割は経営者引退後まで借入金を残している。

続いて、「経営者引退を決断した時点」及び「経営者を引退した時点」の、事業に関する金融機関からの借入金の保証について見る(第2-1-70図)。

事業承継した企業は、経営者引退時点までに、引退する経営者が保証する割合が下がり、後継者が保証する割合が上がっている。実際に事業承継が完了する前から、経営者保証の引継ぎが実施されていると推察される。

他方、廃業した企業のうち、経営者引退時点までに借入金を完済していない企業は、経営者の個人保証がそのまま残っている場合がほとんどである。

第2-1-71図では、経営者引退時点で、事業に関する金融機関からの借入金を完済しなかった理由を見ている。

事業承継した企業では、「事業を継続するため、完済する必要がなかった」とする回答が大半を占めている。

他方、廃業した企業においては、「債務超過のため、完済が困難だった」、「引退後の収入で完済しようと思った」、「資産の売却が進まなかった」とする回答が多い。経営者引退後の、借入金の返済について相談する相手が必要とされている可能性が示唆される。

3 経営者引退後の生活

最後に、経営者を引退した者の、その後の生活について見ていく。

〔1〕経営者引退後の収入の状況

第2-1-72図及び第2-1-73図は、引退した経営者の直近1年間の生活資金について見たものである。事業承継した経営者、廃業した経営者ともに、公的年金を生活資金としている割合が高い。事業承継した経営者においては、勤務収入を得ている者も半数以上いる。主たる生活資金を見ても、事業承継した経営者は公的年金と勤務収入、廃業した経営者は公的年金が中心となっている。

次に、引退した経営者の、現在の雇用形態について見たものが第2-1-74図である。

事業承継した経営者は、「会社・団体などの役員」が最も多い。法人企業では、経営していた企業の代表を退いた後も、役員として在籍している場合が一定数いると推察される。

他方、廃業した経営者は、約7割が無職となっており、年金生活が主になっていると考えられる。

続いて、引退した経営者の現在の収入の満足度を示したものが第2-1-75図である。

事業承継した経営者は、経営者引退後も、収入に「満足」、「やや満足」と回答している割合が53.5%となっている。経営者引退後も、働いている者が多いことが要因だと考えられる。

他方、廃業した経営者は、「満足」、「やや満足」に比べ、「やや不満」、「不満」と回答した者が多かった。

〔2〕経営者引退後の生活の状況

次に、引退した経営者の現在の生活の満足度を示すが第2-1-76図である。

事業承継した経営者は、現在の生活について「満足」、「やや満足」とする割合が70.8%と大半を占めている。廃業した経営者についても、「満足」、「やや満足」が約半数となっている。

事業承継した経営者、廃業した経営者ともに、収入の満足度に比べ、生活の満足度が高い傾向にある。

経営者引退の準備期間別に、引退した経営者の、現在の生活の満足度について聞いたものが第2-1-77図である。経営者引退の準備期間が長い方が、現在の生活について「満足」と感じている者が多い傾向にあることが分かる。準備期間に行う引退準備の取組は様々あるが、早めの引退準備がその後の生活の満足度の向上につながることが多いと考えられる。

現在の生活が、「やや不満」、「不満」とした理由について見たものが第2-1-78図である。事業承継した経営者、廃業した経営者ともに、「経済的余裕がない」、「健康上の問題」を理由とする割合が高い。

現在の生活が、「満足」、「やや満足」とした理由について見たものが第2-1-79図である。事業承継した経営者、廃業した経営者ともに、「時間的余裕がある」、「精神的余裕がある」とする割合が高い。経営者としての多忙さや責任感から離れ、肩の荷が下りたと感じている者が多いと考えられる。

4 まとめ

第1項では、経営者引退前の状況について見てきた。経営者引退にかかる懸念事項、実際に問題になったことは、「自身の収入の減少」、「顧客や販売先、受注先への影響」、「従業員への影響」など様々ある。経営者引退に関する相談先は大半が「公認会計士・税理士」となっており、その相談内容は、「引退するまでの手順や計画を整理できた」が最も多い。経営者引退というデリケートな相談内容であるが、それぞれ強みを持つ支援機関から助力を得ることができれば、解決する課題もあるだろう。経営者引退の準備期間を長く取り、余裕をもって、専門機関・専門家に相談することが、滞りない引継ぎにつながると考えられる。

第2項では、経営者引退に際した借入金の状況について見てきた。廃業した経営者について、引退決断時に借入金がある割合は少ないが、事業承継した経営者に比べ、経営者保証割合が高い。また、廃業した経営者は、完済に向けた借入金の返済に際して、個人や家族の資産を原資とする割合が高い。倒産した場合だけでなく、廃業をした場合も、経営者の引退に際し、個人資産を減少させてしまっているケースが一部ではあるが存在すると考えられる。

第3項では、経営者引退後の状況について見てきた。引退した経営者のその後の状況を確認すると、収入の状況はそれぞれだが、生活の満足度については、事業承継した経営者・廃業した経営者ともに「満足」、「やや満足」とした回答が多かった。理由としては、「時間的余裕がある」、「精神的余裕がある」とする割合が高く、多忙さや責任感から離れることで、肩の荷が下りたと感じている者が多いと考えられる。経営者を引退することは決して後向きなことではないといえよう。また、引退準備の期間を長く確保する方が、引退後の経営者の生活の満足度の向上につながるということが分かった。経営者として有終の美を飾るためには、引退後の生活を見据えるという観点からも、早めの引退準備が重要であるといえよう。

第5節 まとめ

本章では、経営者が引退する企業からの、経営資源の引継ぎについて概観してきた。

第1節では、経営者引退の全体像を確認した。経営者の高齢化が進み、経営の担い手の数も減少しており、このままでは中小企業が持つ貴重な経営資源が散逸してしまう恐れがある。そのため次世代に経営資源を引き継ぐ取組が重要である。経営資源の引継ぎには、事業承継のほか、廃業企業から経営資源を引き継ぐという形もある。

第2節では、事業承継について分析した。事業承継の形態別で、後継者を決定する上で重視した資質・能力、有効だと感じた後継者教育に違いがあることが分かった。これから事業承継を検討する経営者は、それぞれの状況に応じた後継者探しや後継者教育を検討することが大切だと考えられる。また、効果的な後継者教育を行うためには、十分な時間が必要であり、早めに準備することが大切である。さらに、事業承継後の企業のパフォーマンスについて見ると、事業承継を実施していない企業に比べ、売上高や資産が増加傾向にあることが分かった。事業承継は、企業の財務状況向上に貢献する傾向があると考えられる。

第3節では、廃業企業からの経営資源の引継ぎについて見てきた。「従業員」、「販売先・顧客」、「設備」、「事業用不動産」について保有する廃業企業のうち、約半数が他者に引き継ぐことができていることが分かった。他方、廃業にあたって経営資源の引継ぎを行っていない経営者について、引き継がなかった理由を確認すると、経営資源ごとに異なるが、「引継ぎするという発想がなかった」、「引き継ぐ価値があるとは思わなかった」、「引継ぎ先が見つからなかった」というものが多かった。このことから、廃業に当たって、経営資源の引継ぎという選択肢があることの周知、経営資源の引継ぎを検討する上での価格算定、経営資源のマッチング、などの支援ニーズがあると考えられる。また、廃業企業の収益状況について確認すると、高い利益水準にあった企業が、徐々に利益率を減少させた後に、休廃業・解散するに至る場合があることが分かった。収益状況が悪化していく前に、早めに先を見据えた経営改革もしくは事業承継・廃業の準備をすることが重要だといえよう。

第4節では、経営者引退時と引退後について概観した。経営者引退に際しては、様々な課題があり、準備期間を長く確保することが余裕につながると分かった。また、引退後の経営者の状況を確認すると、収入の状況はそれぞれだが、生活の満足度については、事業承継した経営者・廃業した経営者とも、「満足」、「やや満足」している者の回答が多かった。多忙さや責任感から離れることで、肩の荷が下りたと感じている者が多いと考えられる。

経営者は、誰しもいつかは引退するものである。経営者として有終の美を飾り、これまで作り上げてきたことを未来の価値につなげていくには、引退が視野に入る早い段階から、事業や経営資源の引継ぎや、自身や周囲の人の暮らしの満足に向けた準備をすることが重要である。
全選択
第2章 次世代の経営者の活躍

第1章では、中小企業の経営者が早めに事業承継に向けて準備することや、有用な事業や経営資源を次世代の経営者に譲り渡すことの重要性などについて見てきた。本章では、そのような事業や経営資源を譲り受ける者を含む「次世代の経営者」に着目し、分析を行っていく。具体的には、第1節で我が国の起業や事業承継の実態について、国際比較などにより概観し、第2節では起業に関心のある者や、事業を承継する可能性のある者が、経営者になるまでの実態や課題の分析を行い、第3節では起業後に成長を続けていく企業の実態や課題を明らかにすることで、経営者を増やしていくために求められる支援策などの在り方について検討していく。

第1節 経営者参入の概観

本節では、各種の統計や調査を用いて、我が国の経営者参入の実態を時系列に見るとともに、起業活動の国際比較を行うことで、我が国の経営者参入(起業・事業承継)の実態を明らかにしていく。

1 経営者参入の概念整理

はじめに、本章で「次世代の経営者」全体を分析していくに当たり、経営者参入の概念を整理する。

ここでいう「次世代の経営者」とは、新たに経営者に参入する者のことを指す。

経営者参入には、「起業」と「事業承継」がある。(第2-2-1図)。

(1)事業承継

第1章第1節で見てきたとおり、「事業承継」とは、経営者が引退しても「事業が継続する」ことを指す。つまり、参入する経営者にとっては「既存の事業を継続させる」ということになる。また、「事業承継」した場合は、事業を行うために必要な経営資源を何かしら引き継ぐことになる。

「経営資源」には、事業用資産(設備・不動産)、資金、取引先との人脈、顧客情報、ノウハウなどが挙げられる。

(2)起業

ここでいう「起業」とは、新たな事業を開始することを指し、次の二つに整理する。

I経営資源の引継ぎを実施

II経営資源を引継ぎせず

最後に、「起業」を目指していた者が、新たに事業を開始するより、既存の事業を承継する方がメリットが大きいと判断し、「事業承継」により経営者になるケースも考えられる。本章ではこうした「事業承継」による経営者参入も視野に入れながら「起業」を目指す者についても扱っていく。

2 我が国の経営者参入の概観

本項では、総務省「就業構造基本調査」を用いて、「新たな経営の担い手」の実態や経年変化を概観し、我が国の経営者参入の実態について分析していく。

本項でいう「新たな経営の担い手」とは、過去1年間に職を変えた又は新たに職についた者のうち、現在は「会社等の役員」又は「自営業主」と回答した者をいう。代表権のない役員も含まれることには留意が必要である。

具体的には、まず、新たな経営の担い手全体の経年変化を概観する。新たな経営の担い手には、起業により経営者に参入する「起業家」、事業承継により経営者に参入する「後継経営者」が含まれる。これを踏まえて、起業家や起業を希望する者、及び後継経営者や事業承継を希望する者についてもそれぞれ分析していく。

本項でいう「起業家」とは、過去1年間に職を変えた又は新たに職をついた者のうち、現在は「会社等の役員」又は「自営業主」と回答し、かつ「自分で事業を起こした」と回答した者をいう。なお、副業としての起業家は含まれていない。

本項でいう「後継経営者」とは、過去1年間に職を変えた又は新たに職をついた者のうち、現在は「会社等の役員」又は「自営業主」と回答し、かつ「自分で事業を起こしていない」と回答した者をいう。

〔1〕新たな経営の担い手の概観

第2-2-2図は、新たな経営の担い手の推移を参入の形態別(起業・事業承継)に見たものである。これを見ると、新たな経営の担い手全体で減少傾向にあり、かつ起業家、後継経営者ともにそれぞれ減少していることが分かる。

なお、自分で事業を起こしたかについて無回答の者については、起業家か後継経営者か区別がつかないため、「その他の経営者(無回答)」とし、以後の分析では扱わない。

第2-2-3図は、新たな経営の担い手が参入する業種の割合の長期的な推移について見たものである。これを見ると、1992年以降、主に情報通信業が増加し、製造業、運輸業、小売業などが減少傾向にあることが分かる。

特に2017年について、起業家と後継経営者に分けて参入する業種を見たものが第2-2-4図である。起業家では後継経営者に比べて飲食店や学術研究、専門・技術サービス業の割合が高く、後継経営者では起業家に比べて農林漁業、製造業、不動産業、その他サービス業の割合が高いことが分かる。

〔2〕起業の担い手の概観

ここからは、起業家や起業を希望する者(以下、本項では「起業希望者」という。)、起業の準備をする者(以下、本項では「起業準備者」という。)などを「起業の担い手」と捉え、経年変化を概観することで、我が国の起業の実態について分析していく。

本項でいう「起業希望者」とは、有業者のうち「他の仕事に変わりたい」かつ「自分で事業を起こしたい」と回答した者、又は無業者のうち「自分で事業を起こしたい」と回答した者をいう。なお、副業起業希望者は含まれていない。

本項でいう「起業準備者」とは、起業希望者のうち「(仕事を)探している」、又は「開業の準備をしている」と回答した者をいう。なお、副業起業準備者は含まれていない。

第2-2-5図は、起業希望者数、起業準備者数、起業家数などの推移を示したものである。これを見ると、起業希望者数、起業準備者数、起業家数ともに2007年以降は減少傾向にある。他方、起業家数の減少割合は、起業希望者数と起業準備者数の減少割合に比べて緩やかであることが分かる。

また、副業として起業を希望する者や準備をする者(以下、本項ではそれぞれ「副業起業希望者」、「副業起業準備者」という。)は増加しており、起業希望者や起業準備者の減少を補っていることが分かる。

なお、起業準備者に対する起業家の割合は、2007年から2017年にかけて、34.7%、40.4%、43.6%と上昇している。

〔3〕起業家の概観

ここからは、起業家について概観していく。

第2-2-6図は、起業家数の推移を男女別に見たものである。男性の起業家が減少する一方、女性の起業家は増加しているため、起業家全体に占める女性起業家の割合は上昇している。

また、第2-2-7図では起業家の年齢構成を男女別に見たものである。2007年から2017年にかけて男女ともに49歳以下の年齢層の割合が高まっており、特に女性については、62.3%から76.2%へ大きく増加していることが分かる。

次に、年代ごとに母集団数の歪みを補正するため、年齢階層別に起業率の推移を見たものが第2-2-8図である。これを見ると、多くの年代で起業率は低下傾向にある中で、26~39歳では上昇傾向にある。

本項でいう「起業率」とは、各年齢階層の総人口に対する起業家の割合をいう。

第2-2-9図は2017年の起業家の起業分野について、男女別、年齢別に見たものである。これを見ると、男性では相対的に建設業、製造業、運輸業、情報通信業、卸売業での起業が多いのに対し、女性では小売業、飲食店、生活関連サービス業、医療・福祉、教育での起業が多い。

年齢別では、60~69歳では農林漁業や学術研究、専門・技術サービス業、50~59歳では運輸業、40~49歳では建設業や教育、26~39歳では情報通信業や生活関連サービス業が比較的多いことが分かる。

〔4〕起業希望者の概観

ここからは、起業希望者について概観していく。

第2-2-10図は、起業希望者の推移について男女別に見たものである。これを見ると、1997年から2007年にかけて男女とも起業希望者・副業起業希望者の合計が減少したが、2012年から2017年にかけては男女ともに副業起業希望者の増加が起業希望者の減少を補う形で、起業希望者・副業起業希望者の合計が横ばいを維持していることが分かる。

第2-2-11図は年齢別の起業希望率の推移を見たものである。これを見ると、多くの年代で起業希望率は低下傾向にある。直近では26~39歳、40~49歳で起業を希望する割合が高いことが分かる。

本項でいう「起業希望率」とは、各年齢階層の総人口に対する起業希望者の割合をいう。

第2-2-12図は、今の仕事をやめて「ほかの仕事に変わりたい」者(転職希望者)を、起業したい者(以下、「起業希望者(有業者)という。」)とそれ以外の者(以下、「その他の転職希望者」という。)に分けて、仕事を変えたい理由について比較したものである。これを見ると、「収入が少ない」、「時間的・肉体的な負担」を理由に、仕事を変えたいと回答した起業希望者(有業者)の割合は、その他の転職希望者より少ない。また、「知識・技術を生かす」を理由に仕事を変えたいと回答した起業希望者(有業者)の割合は、その他の転職希望者より多いことが分かる。

〔5〕後継経営者の概観

ここからは、後継経営者や、事業承継を希望する者(以下、本項では「後継希望者」という。)などを「事業承継の担い手」と捉え、経年変化を概観することで、我が国の事業承継の実態について分析していく。

本項でいう「後継希望者」とは、有業者のうち「他の仕事に変わりたい」かつ「家業を継ぎたい」と回答した者、又は、無業者のうち「家業を継ぎたい」と回答した者をいう。家業以外の事業を継ぎたいと考えている者は含まれていないことには留意が必要である。

まず、後継経営者について概観していく。

第2-2-13図は、後継経営者数の経年変化を見たものである。これを見ると、後継経営者数は下げ止まっており、2017年では女性の後継経営者が占める割合が高くなっていることが分かる。

第2-2-14図は、後継経営者の年齢構成について見たものである。2017年を見ると、男性では60~69歳の割合が高く、経営者や会社役員に就任する中心の年代であることが分かる。女性では、26~39歳の割合が高く、男性に比べて若い年代が多いことが分かる。

経年変化については、2017年は2012年に比較して、男女ともに49歳以下の割合が増加している。経営の担い手の若い年代への代替わりが進んでいるものと考えられる。

次に、年代ごとに母集団数の歪みを補正するため、年齢階層別の事業承継割合の推移を見たものが第2-2-15図である。これを見ると、2012年から2017年にかけて50~59歳、60~69歳が低下しており、26~39歳は上昇していることが分かる。

本項でいう「事業承継割合」とは、各年齢階層の総人口に対する後継経営者の割合をいう。

第2-2-16図は2017年の後継経営者の事業承継分野について、男女別、年齢別に見たものである。これを見ると、男性では相対的に農林漁業、建設業、製造業、情報通信業、その他サービス業での事業承継が多いのに対し、女性では小売業、不動産業、生活関連サービス業での事業承継が多いことが分かる。また、女性の事業承継分野を起業分野(第2-2-9図)と比較すると、事業承継では建設業や製造業も相応にいることが分かる。

年齢別では、60~69歳では農林漁業、50~59歳では製造業、40~49歳では建設業、26~39歳では情報通信業や小売業が比較的多いことが分かる。

〔6〕後継希望者の概観

ここからは、後継希望者について概観していく。

第2-2-17図は、後継希望者数の推移について見たものである。これを見ると、男性は減少傾向にあるのに対し、女性はほぼ横ばいで推移していることが分かる。

次に、年齢別の後継希望率の推移を見たものが第2-2-18図である。これを見ると、25歳以下では減少しているものの、26~39歳での後継希望率は、比較的高い水準で推移していることが分かる。

本項でいう「後継希望率」とは、各年齢階層における総人口に対する後継希望者の割合をいう。

〔7〕まとめ

以上より、経営の担い手全体では、起業家、後継経営者ともに減少傾向にあるものの、年代別で見ると26~49歳の割合が増加していることが分かった。

起業の担い手については、副業起業希望者が増えていることや、起業希望者は転職希望者に比べて技術・知識をいかすために仕事を変えたい者が多いことが分かった。

技術・知識をいかすために起業する場合、必ずしも現職をやめたい理由があるとは限らない。副業起業希望者が増えているのも、現職をやめることによるリスクを考慮している者が増えているからではないだろうか。起業家を増やしていくためには、現職を続けるか起業するか迷っている層に対して、起業に失敗しても再起しやすい環境や、現職をやめずに副業として起業できる環境を提供することも有効といえよう。

3 起業の実態の国際比較

本項では、起業するまでのプロセスに着目し、起業に関する意識・活動について国際比較を行うことで、我が国の起業の実態について明らかにしていく。

〔1〕GEM調査について

起業意識と起業活動の国際比較を行うに当たり、世界の多くの国が参加する「Global Entrepreneurship Monitor(グローバル・アントレプレナーシップ・モニター)」(以下、「GEM調査」という。)を用いて、我が国及び米国、英国、ドイツ、フランス、オランダ、中国の起業意識・起業活動の違いを見ていく。

GEM調査では、国の経済発展が起業活動と密接な活動にあるという仮説のもとに、米バブソン大学と英ロンドン大学が中心となり1999年から実施されているもので、(1)国ごとの起業活動に違いはあるか、(2)経済活動と起業活動に関連性はあるのか、(3)起業活動の違いを生み出す要因とは何かの三つを明らかにすることを目的としたものである。1999年に我が国を含め10か国からスタートし、2017年には54の国や地域が参加している。サンプル数は一つの国当たり最低2,000サンプル(サンプリングは無作為抽出)であり、全世界共通の調査票が使われている。なお、一度調査に参加した国でも毎年継続して参加するとは限らない。

GEM調査では、18歳から64歳までの者に対して、起業意識について尋ねている。起業活動に関連する調査項目として、「周囲に起業家がいる」「周囲に起業に有利な機会がある」「起業するために必要な知識、能力、経験がある」があり、本項ではGEM調査に従って、これらの三つ全ての項目について「いいえ」と回答した人を起業無関心者、一つでも「はい」と回答した者を「起業関心者」と定義した(第2-2-19図)。

「過去2年間に、新しく事業を始めた人を知っている」と回答した人をいう。

「今後6か月以内に、自分が住む地域に起業に有利なチャンスがある」と回答した人をいう。

「新しいビジネスを始めるために必要な知識、能力、経験を持っている」と回答した人をいう。

また、起業活動についても尋ねており、「独立・社内を問わず、新しいビジネスを始めるための準備を行っており、かつまだ給与を受け取っていないまたは受け取ってから3か月未満である人」及び「すでに会社を所有している経営者で、当該事業からの報酬を受け取っている期間が3か月以上3.5年未満である人」を「起業活動者」と定義している(第2-2-20図)。

「現在、1人または複数で、何らかの自営業、物品の販売業、サービス業等を含む新しいビジネスをはじめようとしていますか」、「現在、1人または複数で、雇用主のために通常の仕事の一環として、新しいビジネスや新しいベンチャーをはじめようとしていますか」、「現在、自営業、物品の販売業、サービス業等の会社のオーナーまたは共同経営者の1人として経営に関与していますか」などの複数の質問から、「起業活動者」を定義している。詳細は付注2-2-1を参照のこと。

〔2〕起業活動の国際比較

はじめに、起業活動について国際比較していく。起業活動者の割合の推移について見たものが第2-2-21図である。これを見ると、我が国の起業活動は諸外国に比べて一貫して低い水準で推移しており、2017年ではフランスに次いで2番目に低い水準となっていることが分かる。

〔3〕起業意識の国際比較

続いて、起業意識について国際比較していく。起業無関心者の割合の推移について見たものが第2-2-22図であるが、我が国の起業無関心者の割合は一貫して高水準で推移しており、起業意識が相対的に低いことが分かる。

次に、「周囲に起業家がいる」、「周囲に起業に有利な機会がある」、「起業するために必要な知識、能力、経験がある」に加え、「起業は望ましいことである、「起業に成功すれば社会的地位が得られる」と回答した人の割合について国別に見たものが第2-2-23図である。いずれの項目についても、我が国で各項目に「はい」と回答した者の割合は諸外国に比べて低く、我が国の起業に対する意識は、諸外国に比べて特に低いことが分かる。

「あなたの国の多くの人たちは、新しくビジネスを始めることが望ましい職業の選択であると考えている」と回答した人をいう。

「あなたの国では、新しくビジネスを始めて成功した人は高い地位と尊敬を持つようになる」と回答した人をいう。

〔4〕起業意識と起業活動の関係

続いて、起業意識と起業活動の関係について見ていく。第2-2-24図は起業無関心者に占める起業活動者の割合、及び起業関心者に占める起業活動者の割合を見たものである。これを見ると、日本は起業活動者の割合自体は他国に比べて低いものの、起業関心者に占める起業活動者の割合で見れば、中国、米国に次ぐ3番目の水準であることが分かる。なお、起業無関心者に占める起業活動者の割合が極めて低いことは各国共通であることが確認されるため、起業活動者を増やすには起業関心者を増やすことが重要であることも分かる。

次に、起業への関心を測る三つの質問項目別に起業活動者の割合を見たものが第2-2-25図である。これを見ると、我が国で「起業するために必要な知識、能力、経験がある」と回答した者に占める起業活動者の割合は23.9%と、「周囲に起業家がいる」(16.4%)、「周囲に起業に有利な機会がある」(18.0%)と回答した者に占める起業活動者の割合に比べて高い。

我が国では、起業するために必要な能力などが備わっていると自分自身で認識しているかどうかが、起業に踏み切れるかの大きな要素になっていると考えられる。

〔5〕まとめ

以上の結果から、我が国の起業意識の水準は、諸外国と比べて低い水準で推移しているが、その一方で、起業関心者、特に起業に必要な能力等を持つ者に限定すると、起業活動を行う割合は、相対的に高いことが分かった。また、我が国においては自身の能力等で起業ができるかどうか見極める機会を増やすことが、起業家を増やすための有効な支援策になり得るといえよう。
全選択
第2節 経営者参入に至るまでの課題

本節では、経営者参入に至るまでの実態と課題を明らかにしていく。

はじめに、経営者参入に至るまでの過程について、以下のように整理した(第2-2-26図)。

経営者参入に至るまでの過程は多様であり、第2-2-26図の中でその過程を全て整理できるわけではないが、本章では同図に基づき、経営者参入に至るまでの課題について見ていく。

まず、現在経営者である者について、

〔1〕起業により経営者になった者(特に、起業から10年超経過していない者を「起業家」という。)

〔2〕事業承継により経営者になった「後継経営者」

に分類した。

本節でいう「起業家」とは、本業で起業(フリーランスでの起業を除く)したことがあり、その事業を10年以内継続している者をいう。

次に、現在経営者でない者のうち、身近に継げる事業があり、その事業を継ぐ意思が僅かでもある者、すなわち今後、親族内承継や役員・従業員承継をする意思が僅かでもある者について、

〔1〕事業を継ぐことについて現経営者と合意がとれている「後継決定者」

〔2〕事業を継ぎたいと考えているがまだ合意はとれていない「積極的後継者候補」

〔3〕前向きではないが事業を継ぐかもしれないと考えている「消極的後継者候補」

に分類した。

最後に、事業を継ぐ意思が全くない者(以下、本節では「後継無関心者」という。)及びそもそも身近に継げる事業がない者について、

〔1〕起業に向けて準備をしている「起業準備者」

〔2〕起業する可能性のある「起業希望者」

〔3〕起業に関心のない「起業無関心者」

に分類した。

本節では「中小企業・小規模事業者における経営者の参入に関する調査」(以下、「経営者参入調査」という。)を基に、起業準備者、起業希望者、後継決定者、積極的後継者候補、消極的後継者候補に特に着目し、まず起業に至るまでの実態と課題、続いて事業承継に至るまでの実態と課題について、分析を行っていく(第2-2-27図)。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)が2018年12月に実施したアンケート調査。インターネットによるスクリーニング調査を全国の20歳以上69歳以下の男女18万人に対して行った。
調査方法はスクリーニング調査と本調査の2段階で行われており、スクリーニング調査で本調査の調査対象となる起業や事業承継をする可能性のある者、既に起業した者などの対象者を抽出し、本調査への回答者とし、5,853人から回答を得た。うち、本章では起業や事業承継をする可能性のある者2,931人の回答を主に利用する。
スクリーニング調査については、人口構成比に合わせるため、平成27年国勢調査を基に、性別、年齢階層別(35歳以下、36歳以上55歳以下、56歳以上)のバランスを考慮して配信している。
本調査については、起業準備者、後継決定者はスクリーニング調査で抽出した者全員に配信し、それぞれ790人、641人から回答を得た。また起業希望者、積極的後継者候補、消極的後継者候補は、スクリーニング調査で抽出した者のうち、それぞれ750人、250人、500人に絞って回答を得た。

1 起業準備者・起業希望者の概観

はじめに、「経営者参入調査」における、起業準備者・起業希望者について概観する。

〔1〕起業準備者・起業希望者の現在の勤務先

第2-2-28図は、現在会社員である起業準備者及び起業希望者の現在の勤務先の従業員数について見たものである。これを見ると、起業準備者、起業希望者ともに約4割が301人以上と回答しており、規模の大きい企業に勤めている者の割合が高いことが分かる。

〔2〕起業準備者・起業希望者が起業を検討している業種

次に、起業準備者及び起業希望者が起業を検討している業種について見たものが第2-2-29図である。これを見ると、起業を検討している業種はいわゆるサービス業に多いことが分かる。

〔3〕起業準備者・起業希望者の起業後の売上高に対する成長意向

第2-2-30図は、起業準備者及び起業希望者の売上高に対する成長意向について見たものである。本節では売上高を「短期間で拡大させる」者を「急成長型」、「中長期的かつ安定的に拡大させる」者を「安定成長型」、「拡大を意図しない」者を「事業継続型」と呼び、これを「起業後の成長意向」としてタイプ別に分析を行っていく。

2 起業を目指すきっかけ

ここからは、ステージごとの実態と課題について見ていく。

前節では、諸外国と比較して、我が国では起業に無関心な人が多く、起業家を増やしていくには起業無関心者が関心を持つきっかけが重要であることを見た。現在起業に関心を持っている起業準備者や起業希望者は、どのような経験を機に起業に関心を持つようになったのだろうか。本項では、起業準備者及び起業希望者にとって起業の動機付けとなった経験を見ていくことで、起業に関心のない者に関心を持ってもらう方法について検討する。

第2-2-32図は、起業準備者及び起業希望者が経営者になることを意識する前に経験し、起業の動機付けになったものを見たものである。これを見ると、「本・テレビ・インターネットなどからの起業家に関する情報」の他に、「正社員としての勤務経験」、「アルバイト・パート経験」がきっかけになったという者の割合が高い。就業経験の中で、何かしら起業に関心を持つきっかけがあった者が多いものと考えられる。

次に、起業準備者及び起業希望者にとって起業の動機付けとなった経験を、起業後の成長意向別に見たものが第2-2-33図である。「経営に関する授業・セミナー」、「ビジネスプランの作成」、「起業家などによる講演会や交流会への参加」、「企業・商店における職場体験・インターンシップ」(以下、「起業家教育など」という。)と回答した者の割合は、成長意向が強いほど高いことが分かる。また、動機付けとなった経験をした時期について見た第2-2-34図によると、多くの者が社会人になってから経験していることが分かる。

以上より、実際の就業経験が起業に関心を持つきっかけになっていること、起業家教育などを体験することは、成長意向の強い起業家が増えることにつながることなどが考えられる。また、学生時代に起業家教育などを経験し動機付けとなった者は多くはなかったが、前節で見たように若い経営者が増えている中、より若い世代に起業に関心を持つきっかけを与えていくことも重要といえよう。

3 起業家になるための課題

本項では、起業準備者の能力形成や相談相手に関する意向を見ることで、起業家になるための課題について分析する。

〔1〕起業家になるための資質・能力

第2-2-36図は、起業準備者が経営者になるために必要だと思う資質・能力、及び資質・能力を身に着けるための取組状況について見たものである。「事業に関する専門知識やスキル」、「事業に関する実務経験」については、「必要性を感じており、既に取り組んでいる」と回答した者の割合が高いことが分かる。また、「経営に関する財務・税務・法務等専門知識」、「金融機関・投資家との折衝能力」については、「必要性を感じているが、どう取り組んでいいか分からない」と回答した者の割合が高いことが分かる。

〔2〕起業家になるための相談先

第2-2-37図は、起業準備者が相談した、又は相談したい専門家や支援機関について見たものである。「金融機関」、「商工会議所・商工会」、「士業」に相談した者や相談したい者が多いことが分かる。4番目に多い「その他の起業や事業承継を支援する団体等」には、自治体と民間が共同で作った支援機関や、業界団体、民間企業のアクセラレーターなどが挙げられ、支援の裾野が広がりつつあることが推察される。

起業準備者が専門家・支援機関に相談しない理由について見たものが第2-2-38図である。これを見ると、支援機関によって「存在を認識していない」と回答する割合には差異があることが分かる。認知度の高い専門家・支援機関が、他の支援機関で受けられる相談内容などの情報について周知するなど、支援機関同士の連携を深めていくことで、各支援機関の持つ支援施策をより多くの起業準備者に利用してもらえるようになると考えられる。

4 経営資源の譲受け

起業に当たっては、他者が保有している経営資源を引き継いで起業する方法がある。第1章第3節では、廃業した経営者が開業予定者に経営資源を引き継いだ実績がまだ少ないことが示されたが、ここでは起業準備者に、廃業した企業などを含む他者から経営資源を引き継ぐ意向があるか見ていくことで、そうしたニーズの有無や、それを実現するための方策について検討する。

また、事業とともに他者の経営資源を引き継ぎ、「後継経営者」として経営者に参入する方法もある。経営資源を引き継いで起業したい起業準備者の中には、こうした意向を合わせ持つ者が含まれている可能性がある。

〔1〕起業家が引き継いだ経営資源、起業準備者が引き継いだ経営資源

第2-2-40図は、起業家が実際にどのような経営資源を引き継いで起業したか、また、起業準備者がどのような経営資源を引き継いで起業したいかを見たものである。経営資源を引き継がずに起業した起業家は約6割いるものの、経営資源を引き継がずに起業したい起業準備者は約3割にとどまる。

引き継ぎたい経営資源については、「事業のノウハウ」、「顧客・販売先」、「設備(居抜きを含む)」と回答した者の割合が相対的にやや高いことが分かる。

次に、起業準備者の起業後の成長意向別に、経営資源の引継ぎの意向を見たものが、第2-2-41図である。起業後の成長意向が強いほど、経営資源の引継ぎを希望する者の割合が多いことが分かる。経営資源の引継ぎを支援することは、成長意向の強い起業家の支援につながる可能性が高いと考えられる。

特に、役員・従業員(人材)を引き継ぎたい起業準備者が、人材に求める能力・資質について見たものが第2-2-42図である。これを見ると、「経営を補佐する能力」が最も多く、次いで「事業に関連する専門知識」、「営業スキル」が多いことが分かる。

〔2〕経営資源を引き継ぎたい理由、引き継がない理由

第2-2-43図は、起業準備者が経営資源を引き継ぎたい理由について見たものである。他者から引継ぎを依頼されていなくても、経営資源を引き継ぎたいと考える者が多いことが分かる。また、「設備(居抜きを含む)」、「不動産」では「金銭的コストを抑えられるから」と回答した者の割合が最も高い一方で、「事業のノウハウ」、「ブランド(店名・商品名等)」、「顧客・販売先」、「役員・従業員」では「一から作り上げるのが困難だから」と回答した者の割合の方が高いことが分かる。

第2-2-44図は、起業準備者が経営資源の引継ぎを検討しない理由について見たものである。「最初から自分で作りたい」が最も多いものの、他方で「思いつかなかった」、「引き継ぐ方法がわからない」、「探し方がわからない」と回答した者が一定数存在する。また第2-2-40図でも見たように、実際に経営資源を引き継いで起業した起業家の方が、経営資源を引き継ぎたい起業準備者より少ないことからも、経営資源を引き継ぐための支援をより充実させれば、引継ぎは拡大する余地があると考えられる。

〔3〕経営資源の引継ぎの相談先

経営資源を引き継ぐ方法や探し方については、支援機関に相談することで解決する可能性があるが、起業準備者は経営資源の引継ぎを相談できる専門家・支援機関としてどこを想定しているのだろうか。

第2-2-45図は経営資源の引継ぎについて相談した又は相談したい専門家・支援機関について見たものである。これを見ると、全ての経営資源について、「相談しない(自分で解決する)」の割合が最も高く、また「その他」の割合も高い。

有形資産では、「相談しない」以外では「不動産・人材などの仲介業者(ウェブ除く)」が多く、民間の事業者に相談すれば引継ぎ先を探せると考えている者が多いと考えられる。

無形資産では、「不動産・人材などの仲介業者(ウェブ除く)」が非常に低いこと、「商工会議所・商工会」、「士業(公認会計士・税理士・弁護士・中小企業診断士等)」が相対的に高いことが分かる。各支援機関が、経営資源の引継ぎへの支援に関する情報を発信していくことも、経営資源の引継ぎの促進につながるものと考えられる。

5 後継決定者・積極的後継者候補・消極的後継者候補の概観

ここからは、事業承継に至るまでの実態と課題について見ていく。

本項では、「経営者参入調査」における、後継決定者、積極的後継者候補、消極的後継者候補について概観する。

〔1〕後継決定者と現経営者との関係

はじめに、後継決定者と現経営者との間柄について見る(第2-2-46図)。これを見ると、現経営者が2代目以降である場合(後継決定者が3代目以降に就任する予定の場合)は、現経営者が「父親・母親」である割合が高くなることが分かる。

〔2〕後継決定者・積極的後継者候補・消極的後継者候補が継ぐ可能性のある事業

続いて、後継決定者、積極的後継者候補、消極的後継者候補が継ぐ可能性のある事業の従業員数について見る(第2-2-47図)。これを見ると、それぞれ1~5人と回答した者の割合が高いことが分かる。

第2-2-48図は、後継決定者、積極的後継者候補、消極的後継者候補が継ぐ可能性のある事業の業種について見たものである。これを見ると、起業準備者及び起業希望者が起業を検討する業種は、サービス業が多かったのに比較して(第2-2-29図)、後継決定者、積極的後継者候補、消極的後継者候補が継ぐ可能性のある事業の業種では、建設業や製造業、不動産業でも多いことが分かる。

第2-2-49図は、後継決定者、積極的後継者候補、消極的後継者候補が継ぐ可能性のある事業の業績について見たものである。これを見ると、「安定的に利益を確保できている(と思う)」と回答した者の割合に大きな差異は見られない。このことから、後継者が事業を継ぐことを考える際に、その業績は大きくは影響しないと考えられる。

〔3〕後継決定者・積極的後継者候補・消極的後継者候補の現在の勤務先

第2-2-50図は、継ぐ可能性のある事業での従事経験について見たものである。これを見ると、積極的後継者候補の方が、消極的後継者候補に比べて「現在従事している」と回答した者の割合が高いことが分かる。

継ぐ可能性のある事業に「現在従事している」と回答した者以外で、現在会社員である後継決定者、積極的後継者候補、消極的後継者候補の勤務先の従業員数について見たものが第2-2-51図である。これを見ると、後継決定者では約4割、積極的後継者候補では約3割、消極的後継者候補では約5割が301人以上と回答していることが分かる。

〔4〕後継決定者の事業承継後の事業規模に対する意向

第2-2-52図は、後継決定者の事業承継後の事業規模に対する意向について見たものである。本節では「新しい事業分野への進出・新商品やサービスの開発をしたい」又は「新しい顧客・取引先を開拓したい」者を「拡大型」、「現状を維持していきたい」者を「維持型」、「事業規模を縮小のうえ経営したい」者を「縮小型」と呼び、これを「事業承継後の事業規模に対する意向」としてタイプ別に分析をしていく。

まず、継ぐ可能性のある事業と、事業承継後の事業規模に対する意向の関係性について見ていく。第2-2-53図は、継ぐ可能性のある事業の従業員数別に、後継決定者の事業承継後の事業規模に対する意向を見たものである。これによると、継ぐ可能性のある事業の従業員数が多いほど、拡大型の後継決定者の割合が高いことが分かる。

続いて、第2-2-54図は、継ぐ可能性のある事業の業績別に、後継決定者の事業承継後の事業規模に対する意向を見たものである。これによると、業績を一定程度把握している後継決定者は、現在の業績の良し悪しにかかわらず、拡大型が過半を占めていることが分かる。

さらに、事業を継ぎたい年齢別に、後継決定者の事業承継後の事業規模に対する意向を見たものが第2-2-55図である。これによると、若いうちに継ぎたいと考える後継決定者の方が、拡大型の割合が高いことが分かる。

6 事業を継ごうと思う理由・思わない理由

第2-2-56図 事業を継ごうと思う理由・思わない理由
本項では、積極的後継者候補が事業を継ごうと思う理由や、消極的後継者候補が事業を継ぐことに前向きでない理由を見ていくことで、事業承継を決断する上で検討材料になっているものについて分析する。

また、後継決定者が事業を継ごうと思った理由と、事業承継後の事業規模に対する意向との間に、関係性がないかについても見ていく。

〔1〕積極的後継者候補が事業を継ぎたい・継いでもよい理由

はじめに、積極的後継者候補が事業を継ぎたい・継いでもよい理由を見たものが第2-2-57図である。これを見ると、「事業がなくなると困る人(取引先・従業員等)がいるから」、「事業に将来性があるから」と回答した者が多いことが分かる。

〔2〕消極的後継者候補が事業を継ぐことに前向きでない理由

事業に将来性があるから継ぎたい・継いでもよいと考える積極的後継者候補者が多いことが分かったが、事業に将来性があるが継ぎたくないと考えている者の懸念は何だろうか。

まず、第2-2-58図は消極的後継者候補が事業を継ぐことに前向きでない理由について見たものである。「事業の将来性」は「自身の能力の不足」の次に多い理由になっていることが分かる。

次に、事業を継ぐことに前向きでない理由として、「事業の将来性」と回答した者と回答しなかった者に分けて、「事業の将来性」以外の前向きでない理由を見たものが第2-2-59図である。これを見ると、事業の将来性への懸念の有無にかかわらず、「自身の能力の不足」と回答した者の割合はほとんど変わらない。自身の能力に対する懸念は、事業の将来性とは関係なく継ぐことをためらう最大の障壁であることが分かる。後継者になる可能性のある者には、早めに自身の能力を見極め、継ぐためにはどのような能力を身に着ける必要があるのかを知ることができるようにすることで、事業承継に前向きになる可能性があるといえよう。

〔3〕後継決定者が事業を継ごうと思った理由と事業承継後の事業規模に対する意向との関係

最後に、後継決定者が事業を継ぎたい、継いでもよい理由を見ていくことで、事業承継後の事業規模に対する意向との関係性について分析する(第2-2-60図)。

拡大型では、「事業がなくなると困る人(取引先・従業員等)がいるから」、「事業に将来性があるから」と回答した者が特に多いことが分かる。また、「事業の関係者(取引先・従業員等)と一緒に働きたいから」、「やりたい仕事をできるから」、「企業文化、技術・ノウハウを守りたいから」、「社会の役に立てるから」は、他の意向を持つ者に比べて割合が高く、事業に対して愛着ややりがいを感じている傾向にある。

維持型では、「自分の家族が協力的だから」、「プライベートとの両立ができるから」と回答した者が多いことが分かる。継いだ後も安心して生活を送ることができるかどうかが継いでもよいかの判断材料になっていると考えられる。

縮小型では、「他の後継者候補が成長するまでの中継ぎが必要だから」と回答した者が多いことが分かる。他に継ぐ人が見つからない中でやむを得ず事業を継いだ場合、事業を縮小させても事業継続を優先することがあると考えられる。

7 事業承継を決断するまでの過程

現経営者が事業承継に向けて準備する期間は、これから経営者になる者にとっては、家族や現経営者の理解を得つつ、経営者になるための準備もしなければならない期間でもある。ここでは、経営者と後継決定者、積極的後継者候補、消極的後継者候補の間の対話状況などを見ていくことで、早めに事業承継に向けた準備を進めるための方法について検討する。

〔1〕後継決定者として認められた契機

第2-2-62図は後継決定者が後継者として認められた契機について見たものである。現経営者が3代目以降の場合(後継決定者が4代目以降に就任する予定の場合)、「子供の頃から継ぐことが決まっていた」と回答した者の割合が高くなることが分かる。また、「現経営者に対し事業を継ぎたいと伝えた」と回答した者の割合は、現経営者が創業から何代目に当たるかにかかわらず少ないことから、少なくとも後継者から見ると、事業承継の決定は現経営者が主導しているということが分かる。

〔2〕事業承継に向けた話合い

第1章第2節では、引退した経営者が後継者を決定し事業を引き継ぐ上で苦労した点として、「後継者に経営状況を詳細に伝えること」を挙げる者が一定数存在した(第2-1-8図)。これに対して第2-2-63図は、積極的後継者候補及び消極的後継者候補が現経営者と事業承継に関する会話をどの程度しているかを見たものである。これによると、積極的後継者候補の方が消極的後継者候補より「あまりしていない」、「していない」と回答した者は少ないものの、それでも5割以上存在することが分かる。現経営者と後継者候補が事業承継について話し合うことは容易ではないことがうかがえる。

第2-2-64図は、日常生活に関する雑談の頻度と、事業承継に関する会話の頻度を見たものであるが、日常会話をする機会が少ない者のほとんどが事業承継に関する会話ができていないことが分かる。家族や社内の形はそれぞれであるが、事業承継に関する会話をするには、まずは日常会話から始めることも一つの在り方といえよう。

第2-2-65図は、後継決定者、積極的後継者候補、消極的後継者候補が事業承継について現経営者と一緒に相談するのに適していると思う相手について見たものである。これを見ると、「現経営者の親族」、「引き継ぐ可能性のある役員・従業員」と回答した者の割合が高い。こうした事業を継ぐ可能性のある者が、信頼の置ける第三者を交えて事業承継に向けて話し合うのも、現経営者と円滑に準備を進めるために有効な一つの選択肢といえるだろう。

8 後継経営者になるための課題

本項では、後継決定者が事業を継ぐために取り組んでいることや相談相手に関する意向を見ていくことで、後継経営者になるための課題について分析する。

〔1〕後継経営者になるための資質・能力

第2-2-67図は、後継決定者が事業を継ぐに当たって懸念することについて、事業承継後の事業規模に対する意向別に見たものであるが、「自分の経営者としての資質不足」、「実務経験の不足」を懸念する者が多く、特に拡大型、維持型で多いことが分かる。

第2-2-68図は、後継決定者が経営者になるために必要だと思う資質・能力、及び資質・能力を身に着けるための取組状況について見たものである。

起業準備者が経営者になるために必要だと思う資質・能力と比較すると(第2-2-36図)、全体として後継決定者の方が「必要かどうか分からない」者の割合が高く、「必要性を感じており、既に取り組んでいる」者の割合が低いことが分かる。事業を継ぐために必要な資質・能力は、起業する場合と比較して、体系的な情報を入手するのが難しいことが推察される。

第2-2-69図は、後継決定者が事業を継ぐために取り組んでいるものと、その中で最も有効だと思うものについて見たものである。これによると、取り組んでいるもの、最も有効だと思うものともに、「事業内での勤務(経営)」、「事業内での勤務(技術・ノウハウ)」と回答した者が多いことが分かる。

第1章第2節では、引退した経営者が実施した後継者教育の内容と、そのうち最も有効だった後継者教育の内容について、「経営について社内で教育を行った」、「自社事業の技術・ノウハウについて社内で教育を行った」と回答した割合が高かった(前掲第2-1-14図)。後継決定者も近い認識であり、事業承継に当たっては社内で経験を積むことが重要であると考えられる。

第2-2-70図は、後継決定者が経営者になるために必要だと思う準備期間を事業承継後の事業規模に対する意向別に見たものである。2年以上かかると回答した者の割合は拡大型で一番多く、5年以上と回答した者は意向にかかわらず約5割となっている。

事業承継に必要な期間ではないことには留意が必要である。

〔2〕経営を補佐する人材の確保

第1章第2節では、引退した経営者が後継者を決定し事業を引き継ぐ上で苦労した点として、「後継者を補佐する人材の確保」を挙げる者が一定数存在した(前掲第2-1-8図)。事業を譲り受ける側である後継者はどのような能力を持った人材を求めているだろうか。第2-2-71図は、後継決定者が経営を補佐する人にどのような能力を求めるかについて、事業承継後の事業規模に対する意向別に見たものである。これを見ると、拡大型では「事業に関する専門知識」、「事業に関する実務経験」をはじめ、多くの面で経営の補佐を求めていることが分かる。事業の拡大のためには周囲のサポートが必要となることが推察される。

〔3〕後継経営者になるための相談先

第2-2-72図は、後継決定者が相談した、又は相談したい専門家、支援機関について見たものである。起業準備者と比較すると(第2-2-37図)、起業準備者では「その他の起業・事業承継を支援する関連組織・団体等」と回答した者が11.2%いたのに対し、後継決定者では4.1%にとどまっている。このことから、後継者を支援する組織は起業家を支援する組織と比べて、まだ広がりに欠けているか、認知されていないと考えられる。

後継決定者が専門家・支援機関に相談しない理由について見たものが第2-2-73図である。これによると、存在を認識されている割合は、専門家・支援機関によって差があることが分かる。起業準備者に対する支援(第2-2-38図)と同様、認知度の高い専門家・支援機関が、他の各支援機関でできる相談の内容などの情報について周知するなど、支援機関同士の連携を深めていくことで、各支援機関の持つ支援施策をより多くの後継者に利用してもらえるようになると考えられる。

9 まとめ

本節では、起業・事業承継の両面から、経営者を目指すきっかけや、経営者になるまでの課題について見てきた。起業と事業承継に共通していえるのは、起業であれば勤務先での経験や起業家教育、事業承継であれば継ぐ事業での従事経験などを通して、自身の能力が経営者として通用するか否かを少しでも肌感覚で理解できている方が、経営者になろうという気持ちにつながりやすいということだろう。経営者になりたい者を増やすには、働きながらでも経営の経験を積めるような機会や、自らのアイデアを相談できる機会を増やし、経営者としての感覚を事前に理解・体験してもらうことが重要であろう。

起業と事業承継で大きく違う点は、経営資源が最初から揃っているかどうかである。経営資源を引き継がずに起業する場合は、制約なく事業を展開できる一方で、ノウハウや技術といった無形資産を作り上げるには時間が掛かり、事業を軌道に乗せるまでのコストとリスクが大きいことが多い。成し遂げたいことに必要な事業や経営資源を、他者が持っているのなら、一から作るのではなく他者から引き継ぐという選択肢も検討に値するだろう。

事業承継では、自身の求めていない経営資源まで引き継がざるを得ないケースも中にはあるが、事業が軌道に乗っているというメリットがある。事業承継特有の課題や不安を払拭できれば、むしろ新しい取組に挑戦しやすい環境になり得るのではないだろうか。

事業や経営資源を譲り受ける場合は、譲り渡す側との合意形成が必要になる。親族から譲り受ける場合でも、事業承継に向けた話合いは、日常会話とは別に行わなければならない。当事者である現経営者や後継者が主体となって対話を進めていくことが重要であり、1対1での対話が難しければ第三者を交えて進めるのも選択肢の一つといえよう。役員・従業員が譲り受ける場合も、これまで培ってきた人間関係があり、同様に当事者が周囲を巻き込んでいくことも選択肢の一つといえよう。

第三者からの事業や経営資源の引継ぎについては、М&Aに向けたマッチングサービスなどは充実しつつあるが、引継ぎを円滑に進める施策は、まだ拡充の余地があるといえよう。経営者の引退が加速する今だからこそ、次世代の経営者に需要のある既存の経営資源を引き継ぎ、有効利用してもらうことが重要である。
全選択
第3節 起業後に成長を果たす起業家の実態

前節では、経営者になるまでの過程における課題について見てきた。こうした課題を払拭し、経営者の数を増やすための取組が重要である一方で、時代の変化に合わせて我が国や各地域の経済を牽引する企業や、新たな雇用の受け皿となる企業が増えていくことも、我が国が継続的に発展していくために重要である。

ここでは、売上高を成長させたい、雇用を拡大させたいと考えている起業準備者や、起業後実際に売上高を成長させている、雇用を拡大させている企業について分析することで、特に成長していく起業家への支援の在り方について、都市部と地方部の環境の違いという観点も交えながら検討していく。

売上高の成長と雇用の拡大の関係性については、付注2-2-2を参照のこと。

1 起業準備者の売上高に対する成長意向

はじめに、売上高の成長について分析する。ここでは「経営者参入調査」における起業準備者を、第2節と同様に、起業後の売上高を「短期間で拡大させる」者を「急成長型」、「中長期的かつ安定的に拡大させる」者を「安定成長型」、「拡大を意図しない」者を「事業継続型」に分類し(第2-2-76図)、それぞれの特徴について見ていく。

〔1〕起業準備者の年齢構成

第2-2-77図は、起業準備者の現在の年齢を売上高に対する成長意向別に見たものである。これを見ると、急成長型及び安定成長型では39歳以下の若い年代が相対的に多いことが分かる。

〔2〕起業準備者の準備期間

第2-2-78図は、売上高に対する成長意向別に、起業準備者が経営者になるために必要だと思う準備期間について見たものである。これを見ると、準備期間は売上高の成長意向にかかわらず大きく変わらないことが分かる。

〔3〕起業準備者が起業を検討している業種

第2-2-79図は、売上高に対する成長意向別に、起業準備者が起業を検討している業種を見たものである。これを見ると、売上高の成長意向にかかわらず、その他のサービス業、小売業、専門・技術サービス業などで起業を検討する者が多い傾向にあり、成長意向が強い者も同じ傾向を示していることが分かる。また、情報通信業では売上高に対する成長意向が強い者の割合が顕著に高いことが分かる。

〔4〕起業準備者の起業希望地

第2-2-80図は、起業準備者の起業希望地別に、売上高の成長意向を見たものである。これを見ると、売上高に対する成長意向は、起業希望地が三大都市圏か否かで大きく変わらないことが分かる。

本節でいう「三大都市圏」とは、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、兵庫県、京都府、愛知県の8都府県をいう。

第2-2-81図は、起業準備者が起業希望地を選んだ理由を、起業希望地別、及び売上高に対する成長意向別に見たものである。三大都市圏以外の急成長型・安定成長型では、「その地域に貢献したい・愛着があるから」、「自分が今住んでいる地域だから」、「自分が生まれた又は過去住んでいた地域だから」、「家族にゆかりのある地域だから」、「その地域に知人・友人が多いから」の割合が高い。これは三大都市圏の急成長型・安定成長型の割合に比較しても高く、三大都市圏以外で起業したいと思うかどうかは、地域への愛着や人間関係がより強く影響していると考えられる。

一方で、三大都市圏以外の急成長型・安定成長型では、「新しいアイデアがわいてきそうだから」、「人材を探しやすいから」、「情報収集しやすいから」の割合が三大都市圏の急成長型・安定成長型に比較して低いことが分かる。情報や人材面での課題を地方部でも解決できる具体的な対応策を示すことができれば、地方で起業を考えている者の後押しができる可能性があるといえよう。

2 売上高急成長企業の実態

前項では、売上高の成長意向別に起業準備者の特徴を見てきたが、実際に近年起業して売上高を成長させている企業にはどのような特徴があるだろうか。ここからは、(株)東京商工リサーチの企業情報ファイルに収録されている2010年に設立された企業(以下、「2010年設立企業」という。)、特にその中でも起業後に売上高を成長させている企業について分析する。

まず、三つの条件を全て満たした企業を抽出(〔1〕設立年が2010年、かつ2012年時点で中小企業。〔3〕2012年及び2017年時点で民営かつ非一次産業の企業。〔3〕2012年及び2017年の決算月数が12か月、かつ売上高及び従業員数が有効回答の企業。)。そのうち、2012年時点の売上高が上位5%の企業を除いた9,106社を対象とした。なお、組織再編による法人設立も含まれている点には留意が必要である。

第2-2-82図は、抽出した2010年設立企業の売上高増減を見たものである。このうち、事業が軌道に乗り始めていることが多いと考えられる起業2年目(2012年)からの5年間で売上高を3億円以上増加させた企業を「売上急成長企業」と定義し、その特徴について見ていく。

〔1〕売上高急成長企業の代表者の年齢構成

第2-2-83図は、売上高急成長企業とその他の2010年設立企業の代表者の年齢構成31について見たものである。これによると、売上高急成長企業の方が30~39歳、40~49歳と比較的若い年代の割合が高いことが分かる。

31 2017年時点(設立の7年後)の年齢を集計している。設立以降代表者が交代している場合は創業者でないことには留意が必要である。

〔2〕売上高急成長企業の業種構成

第2-2-84図は、売上高急成長企業とその他の2010年設立企業の業種構成について見たものである。これによると、売上高急成長企業では、建設業の割合が特に高く、他には、運輸業・郵便業、卸売業、不動産業・物品賃貸業などの割合が相対的に高いことが分かる。

〔3〕所在地別に見た売上高急成長企業の割合

第2-2-85図は、2010年設立企業に占める売上高急成長企業の割合を、三大都市圏に所在するか否か、また、製造業か非製造業かで見たものである。製造業では、三大都市圏と三大都市圏以外で売上高急成長企業の割合に大きな差異はないことが分かる。また、非製造業では、売上高急成長企業の割合は三大都市圏の方が高いことが分かる。

3 起業準備者の雇用に対する拡大意向

ここからは、雇用の拡大について分析する。「経営者参入調査」では、起業準備者の雇用に対する拡大意向についても聞いており、本項では雇用を「短期間で拡大させる」者を「急拡大型」、「中長期的かつ安定的に拡大させる」者を「安定拡大型」、「拡大を意図しない」者を「非拡大型」に分類し(第2-2-86図)、それぞれの特徴について見ていく。

〔1〕起業準備者の年齢構成

第2-2-87図は、起業準備者の現在の年齢を雇用の成長意向別に見たものである。これを見ると、急拡大型では39歳以下の若い年代が多いことが分かる。

〔2〕起業準備者の準備期間

第2-2-88図は、起業後の雇用に対する拡大意向別に、起業準備者が経営者になるために必要だと思う準備期間について見たものである。売上高に対する成長意向別で見た場合と異なり(第2-2-78図)、雇用の拡大意向が強いほど準備期間に時間がかかると回答する傾向にあることが分かる。

〔3〕起業準備者が起業を検討している業種

第2-2-89図は、起業準備者が起業を検討している業種を雇用の拡大意向別に見たものである。これを見ると、雇用の拡大意向が強い者は、製造業やその他サービス業、小売業などで起業を検討する傾向にあることが分かる。また、製造業、情報通信業、運輸業では、雇用の拡大意向が強い者の割合が他の意向を持つ人よりも高いことが分かる。

〔4〕起業準備者の起業希望地

第2-2-90図は、起業準備者の起業希望地別に、雇用の拡大意向を見たものである。これを見ると、雇用の拡大意向は三大都市圏か否かで大きく変わらないことが分かる。

第2-2-91図は、起業準備者が起業希望地を選んだ理由を、起業希望地別、雇用の拡大意向別に見たものである。売上高に対する成長意向別に見た場合と同様(第2-2-81図)、三大都市圏以外の急拡大型・安定拡大型では、「その地域に貢献したい・愛着があるから」、「自分が今住んでいる地域だから」、「自分が生まれた又は過去住んでいた地域だから」、「家族にゆかりのある地域だから」、「その地域に知人・友人が多いから」の割合が高く、三大都市圏の急拡大型・安定拡大型の割合と比較しても高いことが分かる。

4 雇用急拡大企業の実態

ここからは、(株)東京商工リサーチの企業情報ファイルに収録されている2010年設立企業を基に、起業後雇用を拡大させている企業について分析する。

第2-2-92図は、抽出した2010年設立企業の従業員数の増減を見たものである。このうち、事業が軌道に乗り始めていることが多いと考えられる起業2年目(2012年)からの5年間で従業員数を10名以上増加させた企業を「雇用急拡大企業」と定義し、その特徴について見ていく。

〔1〕雇用急拡大企業の代表者の年齢構成

第2-2-93図は、雇用急拡大企業、及びその他の2010年設立企業の代表者の年齢32について見たものである。これを見ると、雇用急拡大企業の方が30~39歳、40~49歳の割合が高いことが分かる。

32 2017年時点(設立の7年後)の年齢を集計している。設立以降代表者が交代している場合は創業者でないことには留意が必要である。

〔2〕雇用急拡大企業の業種構成

第2-2-94図は、雇用急拡大企業とその他の2010年設立企業の業種構成について見たものである。これを見ると、雇用急拡大企業では、医療・福祉が占める割合が特に高く、他には、製造業、情報通信業、運輸業・郵便業、宿泊業・飲食サービス業などの割合が相対的に高いことが分かる。

業種によって、従業員数を多く必要とする業種、しない業種があることには留意が必要である。

〔3〕所在地別の雇用急拡大企業の割合

第2-2-95図は、2010年設立企業に占める雇用急拡大企業の割合を、三大都市圏に所在するか否か、また、製造業か非製造業かで見たものである。製造業では、三大都市圏以外の方が雇用急拡大企業の割合が高いことが分かる。また、非製造業では、三大都市圏と三大都市圏以外で、割合に大きな差異はないことが分かる。

5 まとめ

以上、本節では売上高を成長させたい、雇用を拡大させたい起業準備者や、実際に売上高を成長させた、雇用を拡大させた企業について見てきた。

若年層の方が、売上高成長意向、雇用拡大意向ともに強い傾向があり、実際に成長・拡大しているのも、代表者が若い企業であることを明らかにした。また、雇用を拡大させるためには、起業に向けた周到な準備が必要と考えている者が多いことが分かった。

地域の観点からは、売上高急成長企業、雇用急拡大企業ともに都市部、地方部に偏りなく存在することが分かった。また、その土地で起業したいと思うかどうかは、地域に愛着があるか、地域に人脈があるかが影響していることも明らかになった。

各地域で成長する起業家を生み出していくためには、例えば起業を検討している人に対して、地元のロールモデルとなっている起業家や住民との交流の場を設けるなどすることで、まずは地域への関心や愛着を深めてもらうことが有効であるといえよう。さらに、そうした交流を通して人脈が広がっていくことで、情報収集や人材確保といった地方特有の課題解決につながる可能性もあるのではないだろうか。
第4節 まとめ

本章では、「次世代の経営者」に着目し、その実態と課題について分析を行ってきた。

第1節では、我が国の経営者参入について、起業・事業承継の両方の観点から概観した。起業・事業承継ともに、若い年代が経営者に参入する割合が増えていることなどを明らかにした。また、起業意識について国際比較をしていく中で、我が国では自身の能力などで起業ができるかどうか見極める機会が、起業に関心を持つきっかけになりやすいことも明らかになった。

第2節では、経営者に至るまでの実態と課題について見てきた。起業家教育や継ぐ可能性のある事業での従事経験などを通して、時間をかけて経営者になるための準備を行うことの重要性、そして既存の経営資源を有効活用することで、起業後、事業承継後の事業の成長につなげられる可能性などが示された。

第3節では、起業後の売上高の成長及び雇用の拡大の実態と課題について、地域別の観点も交えながら見てきた。売上高の成長や雇用の拡大のためには、地域への愛着や地域内での人脈も影響している可能性があることが分かった。

経営者の高齢化が進み、経営の担い手の数が減少する中でも、ポスト「平成」に向けた世代交代は着実に進んでいる。時代が変化する中で、一から新しい事業を作り上げる経営者と、引退した経営者の思いや有効活用できる経営資源を引き継いで成長を目指す経営者の双方が、今後の我が国経済を牽引していくことを期待して、本章の結びとしたい。
全選択
第3部 中小企業・小規模企業経営者に期待される自己変革 
第1章 構造変化への対応

約30年続いた「平成」が終わり、5月から「令和」が始まった。

平成の約30年間を振り返ると経済・社会の構造は大きく変化し、今後この変化はさらに大きく速くなることが見込まれる。中小企業経営者は、このような社会変化の中で、柔軟に変化に対応し自己変革を続けていく必要がある。

本章では、我が国の中小企業を取り巻く経済・社会の構造変化と、今後、中小企業に期待される役割について考察していく。

第1節 3つの経済・社会の構造変化

第1部では、中小企業の景況感は緩やかに改善しているが、人手不足にあえぎ、かといって生産性も上がっていないということが示された。ここからは、引合いは必ずしも少なくないが、目の前の仕事をこなすのに精一杯で、業務改善や新事業展開に関する手を打てていない、という中小企業像が浮かび上がる。しかし、本章冒頭でも述べたとおり、経済・社会構造はこの約30年間で大きく変わっている。そこで、本節では、中小企業を取り巻く「人口減少」、「デジタル化」、「グローバル化」の3つ経済・社会の変化が中小企業にもたらす影響を分析していく。

1 人口減少

〔1〕我が国の人口変化

現在の我が国が直面する大きな課題としてまず挙げられるのが、少子高齢化とそれに伴う人口減少である。

第1部第4章で見たとおり、これまで我が国の人口は増加し続けてきたが、2008年をピークに減少に転じた。

特に地方部では、既に人口が大きく減少している。第3-1-1図は、市区町村別に見た、1990年から2015年までの我が国の人口変化である。これを見ると東京・大阪・名古屋など、都市部の人口は増加しているが、地方部の人口は大きく減少しており、都市部への人口集中と地方の過疎化が顕著となっている。

今後、我が国の人口は2050年までに約1億200万人(2015年対比▲約2,500万人)まで減少すると予想されており、都市部と地方部の人口格差は更に拡大することが見込まれる。

〔2〕人口減少と中小企業

次に、各地域と中小企業の関係を確認していく。

第3-1-2図、第3-1-3図は、市区町村別に見た中小企業の事業所数の割合及び中小企業の事業所に勤務する従業者数の割合である。この図では、地図上で赤色が濃い地域ほど、中小企業の割合が高いことを示している。

これを見ると、特に人口減少が顕著な地域において、中小企業の事業所数及び中小企業の事業所に勤める従業者数の割合が高い傾向が見られる。

また、都道府県別に中小企業の事業所に勤める従業者数の割合を見ると、人口減少率の高い都道府県と中小企業の事業所に勤める従業者数の割合の高い都道府県はほぼ一致しており、特に人口減少地域において、中小企業は就業機会の担い手としての役割を果たしていると考えられる。

〔3〕中小企業の労働生産性と人口密度の関係

次に、地域の産業構造の変化について見ていく。第3-1-4図は1986年から2016年までの従業者数で見た地域の中心産業の変化である。一般に、産業構造は、経済の発展・成熟に伴い小売・サービス業などの第3次産業へシフトすると言われているが、これを見ると、我が国においても、製造業(緑色)が減少した反面、小売(青色)、医療・福祉(橙色)、サービス(赤色)が増加していることが分かる。

この現象は、産業構造の高度化を示すペティ=クラークの法則として知られている。

次に、人口密度と労働生産性の関係を、企業規模別(大企業・中小企業)、業種別(製造業・非製造業)に見ていく(第3-1-5図、第3-1-6図)。

本分析では、まず、総務省「平成27年国勢調査」と総務省「統計でみる市区町村のすがた2016」を利用し、市区町村の可住地面積(1km2)当たりの人口密度を算出し、人口密度の高さから市区町村を4つのランクに分類した。その上で、各市区町村に立地する事業所ベースの労働生産性を算出し、企業規模別(大企業・中小企業)、業種別(製造業・非製造業)に見たものである。

これを見ると、製造業・非製造業ともに、中小企業の事業所では、人口密度が高いほど労働生産性が高くなっていることが分かる。他方、大企業の事業所では人口密度の高さと労働生産性の高さには関係がないことが見て取れる。

また、製造業・非製造業で労働生産性を比較すると、人口密度の低い地域における労働生産性が最も低くなっている。

市区町村別の人口密度と、労働生産性の相関分析を行ったところ、非製造業の中小企業事業所において最も強く相関関係が確認された(相関係数 中小企業(非製造業):0.278、中小企業(製造業):0.213、大企業(非製造業):0.069、大企業(製造業):0.003、付注3-1-1を参照)。

以上を踏まえると、中小企業の事業所の労働生産性は、立地地域の人口密度との関係性が強いことが確認された。

しかしながら、人口減少という事象そのものは一朝一夕に解決できる問題ではないため、今後は人口減少を前提としたビジネスモデルを構築していく必要がある。

こうした中で、次項から解説を行う「2.デジタル化」、「3.グローバル化」は大きな追い風になると考えられる。デジタル化は、新たな販路拡大の可能性や、不足する経営資源の補完や経営の合理化を後押しする流れであり、規模の大小を問わず事業を拡大させる可能性を高めるものと考えられる。グローバル化の流れは、新興国を中心とした海外の需要を獲得することができれば、成長の余地が十分にあることを示している。

このように、人口減少という大きな課題に直面する中でも、足下の経済・社会変化は中小企業にとってマイナスの影響ばかりではない。今、中小企業に求められるのは、追い風となる経済・社会変化を、いかに自社の経営に取り込むか、ということであるといえるだろう。

2 デジタル化

〔1〕インターネットの普及

第2の変化はデジタル化の進展である。

1990年代に入って、民間でもインターネットの利用が可能になり、1997年時点において9.2%に過ぎなかったインターネットの世帯普及率は、2002年時点では54.5%と急拡大し、2010年以降はおおむね80%程度の水準で推移している。

第3-1-7図は世帯主年齢別のパソコン・スマートフォンの保有率の2010年から2017年までの推移である。これを見ると、2010年時点でパソコンの保有率はスマートフォンの保有率を大きく上回っていたが、2017年時点では20~64歳までの世代でスマートフォンの保有率がパソコンの保有率を上回っている。また、パソコンの保有率は全世代を通じて2010年から2017年にかけて低下しているが、スマートフォンの保有率は全世代を通じて大幅に上昇している。

第3-1-8図は、インターネットで利用したサービス・機能を年齢別に2010年と2017年で比較したものである。まず、電子メールの利用状況を見ると、2010年と比較して、特に年齢の高い層の利用割合が高くなっていることが分かる。注目すべき変化として挙げられるのは、ソーシャルネットワーキングサービス(以下、「SNS」という。)の活用であり、2010年から2017年にかけて利用率が大幅に高まっていることが分かる。これとは対照的にホームページ・ブログの利用状況を見ると、2010年から2017年にかけて低下しているが、15~59歳までの世代を見ると2017年時点においても約40%の人が利用している。また、商品・サービスの購入・取引については大きな変化がなく、20~50代の世代で40%超の人が利用している。

平成29年通信利用動向調査の調査票では、ソーシャルネットワーキングサービスを「Facebook、Twitter、LINE、mixi、Instagramなど」としている。

このように個人レベルで見ると、インターネット上の活動は一般化、活発化していることが分かる。

〔2〕中小企業のICT活用状況

ここからは、中小企業のインターネットの活用状況を、総務省「平成29年通信利用動向調査」を利用して見ていく。

本節では総務省「通信利用動向調査」を利用し分析を行っている。本調査は従業者数100人以上の企業を対象としているため、本調査を利用した分析は、特に断りがある場合を除き、従業者数100~299人の企業を中小企業、従業者数300人以上の企業を大企業と定義している。

インターネットの普及を企業側から見ると、情報発信や取引の手段の範囲が大きく広がったと捉えることができる。

インターネット普及時代の購買行動は、「AISAS」というモデルで知られており、購買の過程で、インターネット上で「検索」をすることが一般的になっている。言い換えれば、顧客との接点がインターネット上で設けられるようになっており、自社の存在や商品・サービスの認知度を高めるためにはインターネット上での情報発信が重要であるといえる。

AISASとは、2005年頃に(株)電通より考案された、インターネット時代における消費者の購買モデル。消費者の購買プロセスが、「Attention(注意)」→「Interest(関心)」→「Search(検索)」→「Action(行動・購入)」→「Share(評価の共有)」というプロセスに変化していることを指摘した。インターネットの普及により、「Search(検索)」、「Share(評価の共有)」が一般的になったことが特徴。

第3-1-9図は、従業員規模別に見た、ホームページの開設状況の推移である。これを見ると、2010年と2017年を比較すると、中小企業、大企業ともにホームページを開設している企業の割合が若干増加しているが、2010年時点で既に大部分の企業がホームページを開設しており、顧客との接点となる窓口は設けられているといえる。

次に、企業におけるソーシャルメディアサービスの活用状況を確認する(第3-1-10図)。これを見ると、2011年時点において、大企業、中小企業ともに活用状況は1割程度と大きな差は見られなかったが、2017年時点においては中小企業の活用状況が25%に対して大企業が37%となり、差が拡大している。

ここでのソーシャルメディアサービスは、ブログ、SNSや動画共有サイトを指している。これらのサービスは無料・安価で利用できるサービスが多い点に特徴があり、中小企業にとって、始めやすいマーケティングツールであると考えられる。

また、2017年におけるソーシャルメディアサービスの活用目的・用途を確認(第3-1-11図)すると、「マーケティング」ツールとしての活用について大企業と中小企業の差が見て取れる。ソーシャルメディアサービスを活用した情報発信は、マスメディアを通じたテレビCMや広告チラシのような一方的で画一的な情報発信と異なり、双方的でターゲットに合わせた情報発信を行うことができる点が特徴的であり、「顧客との関係性」をより強固にする可能性がある。

運用方法に関しては慎重に検討する必要があるものの、このような新たなツールを積極的に取り込んでいくことは重要であると考えられる。

運用方法を誤ると、企業価値を毀損することになる点に留意が必要である。

3 グローバル化

〔1〕新興国の台頭

海運や航空インフラなど、輸送技術が発達する中で、国際取引の在り方も大きく変化している。これまでは、一つの製品を生産するために必要な様々な工程は、一国内で完結していた。しかし、輸送技術の発達は生産工程の地理的な分散を可能とし、日本の製造業でも、特に労働集約的な工程は人件費の安価な新興国への移転が進められた。

国際的な分業が進む中で、新興国が加工や部品製造など、生産に係る中間工程を担うようになってきた。さらに、近年では資本・技術の蓄積が進んだ結果、新興国からも数多くの最終製品メーカーが登場し、市場を席巻している。

第3-1-28図は、日本における主要輸入品の推移である。これを見ると、1988年から2018年にかけて、我が国の輸入額は、機械類及び輸送機器で約7.5倍、化学製品で約4.5倍、雑製品で約4.2倍となるなど、海外製品の国内市場への流入は非常に大きくなっていることが分かる。輸入自体は、消費者にとっては選択肢が広がり、価格も下がりやすくなるため、好ましいものであるが、個々の中小企業にとっては、競合の増加につながるため、こうした状況に対応していく必要がある。

また、国・地域別の主要輸入品における輸入額の推移を見ると(第3-1-29図)、1988年時点においては、米国・EUの存在感は大きかったが、1990年代後半から中国の存在感は非常に大きなものとなっている。

中国に代表される新興国の台頭は、国際競争力という観点から見ると大きな脅威として捉えられる。他方で、新興国の急速な経済成長は、各国の所得水準を引き上げており、需要が大きく拡大している。

国内市場の縮小が予想される中で、この需要の拡大は我が国の中小企業にとって大きな追い風であり、積極的に海外需要を取り込んで成長につなげていくことが重要である。

〔2〕中小企業の海外展開の状況

ここからは、中小企業の海外展開の状況について確認していく。

第3-1-30図のとおり、一般に、海外展開については大きく分けて、「間接輸出」、「直接輸出」、「直接投資」の三つのステップがあると考えられる。

「間接輸出」は、商社などを通じて自社の商品・サービスを海外に展開するものであり、日系商社であれば通常の商取引となることから実施に係るハードルは相対的に低いと考えられる。「直接輸出」は、海外展開を行う企業が直接外国企業との取引を行うものであり、商社に支払う手数料が必要なくなるほか、取引先と柔軟に取引条件を決めることが可能となる。他方で、海外との取引に係る事務コスト(契約や貿易手続)や取引国のカントリーリスクは自己負担となるため、間接輸出と比較してコストがかかる面もある。「直接投資」は、他国に自社の子会社を設立したり、現地企業を買収したりすることで、経営権を有する企業を他国に設けることを指す。コストの低い海外での生産や、海外での販売網を拡大させることを目的として行われるものであるが、全てのリスクを自己負担しなければならず、この三つの形態の中で最もコストが高い。

以上を踏まえ、ここからは中小企業の海外展開の状況を確認していく。

第3-1-31図は大企業と中小企業の直接輸出企業の割合の推移である。これを見ると、中小企業の輸出企業割合は徐々に増加していることが分かる。

また、中小企業の輸出額と売上高輸出比率の推移を見ても(第3-1-32図)、輸出額は製造業・非製造業ともに増加傾向にあり、売上高に占める輸出額の割合も増加傾向にあることが分かる。

次に、中小企業の海外直接投資の状況を確認する。第3-1-33図は、大企業と中小企業の海外現地法人の保有率の推移である。これを見ると、海外子会社を保有する中小企業の割合は、増加傾向にあり直近では14.2%の中小企業が海外子会社を保有している。

また、第3-1-34図は海外直接投資を行っている企業が進出した国・地域の推移である。これを見ると、2000年代前半までは中国への進出が約50%を占めていたが、その後、中国に設立される子会社の数は緩やかに減少している。これに対して、ASEANを始めとしたアジア諸国への進出が増加しており、この中でも、タイ、インドネシア、ベトナムへの進出割合が高くなっている。

〔3〕地域別に見た中小企業の海外展開の動向

次に、中小企業の海外展開の動向を、都市部と地方部に分けて確認していく。

都市部は、「東京圏」…埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県、「大阪圏」…京都府・大阪府・兵庫県・奈良県、「名古屋圏」…岐阜県・愛知県・三重県の三大都市圏を指す。

地方部は、三大都市圏に該当しない道県を指す。

第3-1-35図は、都市部・地方部別に見た、直接輸出を行っている中小企業数と企業割合の推移である。これを見ると、都市部・地方部ともに直接輸出企業数と企業割合が増加していることが分かるほか、直接輸出企業の割合は、地方部と比較して都市部の割合が高い。

また、都市部・地方部の直接輸出企業の増加率(1997年度基準)の推移を確認していく(第3-1-36図)。これを見ると、都市部と比較して地方部において大きな伸び率になっていることが分かる。

他方、第3-1-37図から、都市部・地方部別の中小企業における輸出額及び売上高輸出比率を見ると、輸出額は都市部・地方部ともに伸びているものの、売上高輸出比率は地方部で2.6%となっており、地方部では輸出を伸ばしていく余地がまだ十分に残されていると考えられる。

同様に、都市部・地方部別に見た、直接投資を行っている中小企業数と企業割合の推移を見ていく(第3-1-38図)。こちらについても、都市部・地方部ともに直接投資企業数と企業割合が増加しているほか、直接輸出企業の割合は、地方部と比較して都市部の割合が高いことが分かる。

また、都市部・地方部の直接投資企業の増加率(1997年度基準)の推移を確認していく(第3-1-39図)。これを見ると、都市部・地方部ともに1997年度から約2倍の数になっていることが分かる。

ここまで見たとおり、中小企業の海外展開は順調な伸びを見せている。

今後、国内市場の縮小が予想される中で、海外市場の積極的な開拓は、重要な取組である。事例3-1-10からも分かるとおり、実際に海外展開を行う際は検討すべき事項が多々あり、一朝一夕に実現できるものではないが、高品質な日本製品はニーズの高いものも多いと考えられ、常に海外市場を念頭に置いた経営を行っていくことが重要であると考えられる。

また、デジタル化の進展の中で、中小企業の海外展開を後押しする流れもある。その代表的な例として挙げられるのは越境ECである。越境ECは、「2.デジタル化」で触れたECを海外の顧客に向けて行うものである。

第3-1-40図は米国・中国消費者による日本の事業者からのEC購入額の推移を示すものである。その市場規模は急速に拡大しており、2017年においては、中国・米国の2か国合計で約2兆円(中国1.3兆円、米国0.7兆円)となっている。

事例3-1-11のように、海外の大手ECサイトも日本企業が利用しやすいような仕組みを構築している例も見られ、中小企業の海外展開のチャンスは拡大しているといえる。
全選択
第2節 社会構造の変化と中小企業に期待される役割

本節では、第1節で確認した社会変化を踏まえて、今後の中小企業に期待される役割について考察を行っていく。

考察に当たっては、まず、1999年の中小企業基本法改正時に示された「21世紀の中小企業像」を振り返るとともに、我が国における中小企業の位置づけを確認する。次に、中小企業を取り巻くステークホルダーの価値観の変化を確認し、最後に、今後の中小企業に期待される役割を見ていく。

1 我が国経済における中小企業の位置づけ

1999年に中小企業基本法の抜本改正が行われた。中小企業基本法改正のポイント(第3-1-50図)を見ると、中小企業を「弱者」として画一的なマイナスのイメージで捉えることは不適切であり、21世紀における中小企業は、機動性、柔軟性、創造性を発揮し、我が国経済の「ダイナミズム」の源泉と位置づけた。

また、中小企業基本法の改正に合わせ、「21世紀の中小企業像」についても示された(第3-1-51図)。これを見ると、中小企業は我が国経済を支える重要な存在として、位置づけられており、中小企業に対する期待の大きさが分かる。

次に、我が国経済における中小企業の位置づけについて、総務省・経済産業省「平成28年経済センサス‐活動調査」より確認しておく。

第3-1-52図は、我が国の企業数・従業者総数・付加価値額・売上高のうち中小企業の占める割合を示したものである。

企業数・従業者総数から見ると、我が国の企業の99.7%は中小企業であり、雇用の約70%を創出しているなど、その存在感は非常に大きい。

また、付加価値額・売上高を見ると、我が国経済に占める割合は、約53%、約44%となっており、中小企業は我が国経済の根幹を担う存在と捉えることができる。

2 ステークホルダーの価値観の変化

前項で見たとおり、中小企業は我が国において大きな存在感を示しており、ステークホルダーから寄せられる期待も大きい。このため、ステークホルダーのニーズについて応えていくことが、今後の中小企業の存続要件につながると考えられる。

ここからは、中小企業のステークホルダーである「消費者」、「従業員」、「社会」の三つの観点から、それぞれのステークホルダーの価値観の変化を確認していく。

〔1〕「消費者」の価値観

まず、消費者の価値観の変化について確認していく。我が国は、戦後から高度成長期にかけて目覚ましい経済成長を遂げ、現在は、分配面の課題は残りつつも、基本的なインフラと生活必需品はおおむね充足される状況にある。このような環境の中で、消費者の消費に対する考え方は大きく変容していると考えられる。

第3-1-53図は、(株)野村総合研究所が実施した「生活者1万人アンケート」による消費スタイルの変化である。

この調査から、消費者の「利便性」を重視する姿勢と、消費に対する「こだわり」が高まっていることが分かる。これに対して、「安ければよい」という価値観は、2000年の調査と比較して大きく減少している。

この流れは、中小企業が顧客に対して提供していくべき価値について、大きな示唆が得られるだろう。

特に、「安ければよい(安さ納得消費)」という価値観の減退は、中小企業にとって追い風になる可能性がある。一般に価格面の競争は、企業の規模で優劣がつきやすい領域であり、大企業の優位性が発揮されると考えられる。反対に、消費者の求める「利便性(利便性消費)」や「こだわり・特別感(プレミアム消費)」は消費者との距離が近い中小企業に優位性がある可能性がある。

事例3-1-14や3-1-15に見られるように、顧客との関係性を強固なものにし、特別な価値を提供していくことは、中小企業にとって特に重要な取組になると考えられる。

3 これからの中小企業に期待される役割

我が国経済において期待される中小企業像は、中小企業基本法改正時から大きく変わっていないと考えられる。

しかしながら、今後、中小企業はステークホルダーの求める価値観の変化を踏まえ、自社が社会の中で果たすべき役割を自ら見出していくことが期待される。

ここからは、これからの中小企業に期待される役割を、小規模企業振興基本計画の変更に関する議論も踏まえ、「我が国経済を牽引する役割」、「サプライチェーンを支える役割」、「地域経済を活性化する役割」、「地域の生活・コミュニティを支える役割」の四つの切り口から確認していく。

平成30年5月17日より、小規模企業基本政策小委員会にて小規模企業振興基本計画の変更に関する実質的な議論が行われた。この中で、平成30年6月29日(第11回)では「サプライチェーン」、平成30年7月12日(第12回)では「地域コミュニティ」、平成30年10月12日(第14回)では「産地産業」がそれぞれ論点として取り上げられている。

ここでは、四つの切り口に限定しているが、中小企業に期待される役割は必ずしもこの四つに限定されるものではない。

〔1〕我が国経済を牽引する役割

本章第1節では、我が国経済は少子高齢化に伴う人口減少を背景に、需要が縮小していくという懸念を指摘するとともに、グローバル化に対応することで外需を取り込み、そうした難局を乗り越えられるという旨を述べたが、グローバル経済の進展に手を打てずにいると、国内産業の衰退に拍車がかかる懸念がある。

第3-1-62図は、海外への製造委託を行っている企業の割合及び委託額の推移である。2009年度からの推移を見ると、海外への製造委託を行っている企業割合及び委託額は大きく伸びており、2016年度における海外への製造委託額は3.6兆円(2009年度比+1.6兆円)、海外への製造委託を行っている企業の割合は14.3%(同比+3.7%pt)となっている。

また、デジタル化の進展により、製造工程だけでなく企業内の業務プロセス(例えば、経理・法務・顧客サポート)についても海外に移転させることが可能58になっている。第3-1-63図は、海外への製造以外の委託を行っている企業割合及び委託額の推移である。これを見ると、委託額は製造委託に及ばないものの、企業割合及び委託額は増加傾向にあることが分かる。

既に、製造業はかなりの部分が海外に流出しているが、非製造業についても今後流出が加速することが懸念されるため、今はグローバル競争にさらされていないサービス業などでも、海外との競争を意識して経営をしていく必要があるだろう。

また、同様に本章第1節で確認したとおり、新興国の経済成長は目覚ましく、世界市場に占める日本の存在感は相対的に低下している。

第3-1-64図は、主要国におけるハイテクノロジー産業輸出額の推移である。

これを見ると、米国やドイツは緩やかな増加傾向で、中国は2000年代前半から大きく伸ばし、現在では世界最大のハイテクノロジー産業輸出国となっているのに対して、我が国の同輸出額は1995年から2016年にかけて緩やかに減少している。

以上を踏まえると、我が国経済の国際競争力は低下していくことが懸念される。

このような状況下で、まず期待される役割として「我が国経済を牽引する役割」が挙げられる。我が国経済の停滞が懸念される中で、国際的な競争力を維持・向上させることは重要であり、そのためには、新たな財・サービスを生み出すための研究開発活動が重要な要素の一つになると考えられる。

中小企業においても、研究開発などによって得られた技術力を源泉に、グローバル展開を目指し、我が国の経済を牽引する役割を担うことが期待される。

とはいえ、実際には中小企業が研究開発に取り組むのは容易ではない。第3-1-65図は経済産業省「企業活動基本調査」から、売上高に占める研究開発費の推移を、企業規模別、業種別に見たものである。これを見ると、中小企業には大企業と比較して、製造業・非製造業とも、金額・伸び率の両面から、研究開発に消極的な姿勢が見られる。

一般に、研究開発を行うためには、十分な設備・人材・資金などの経営資源が必要であり、中小企業が独自に研究開発を行うのはハードルが高い。

他方、現在は、オープン・イノベーションという考え方に基づき、必ずしも自社のみの経営資源に依存することなく、外部と連携しながら研究開発を行うケースも増えつつあり、この流れは中小企業にとって追い風になると考えられる。

第3-1-66図は、大学などの共同研究・受託研究の実施件数の推移である。これを見ると、大学などと民間企業との連携は増加傾向にあることが分かる。

事例3-1-20は実際に大学などと連携し、新商品の開発を行った事例である。このような形で、大学等の研究機関を活用することは、商品に新たな付加価値をもたらしたり、新商品の開発に役立てたりすることができ、自社の競争力の源泉をさらに強固なものにすることにつながるだろう。

また、大企業側も外部資源を利用した研究開発に対して積極的である。

第3-1-67図は、資本金1億円以上で、かつ社内で研究開発を実施している企業に対し、2014年度から2016年度までに外部組織との連携したことがあるかどうかを尋ねたものである。この結果を見ると、全体で約75%の企業が外部機関との連携を行った経験があり、その割合は企業規模が大きくなるほど高くなっている。他方、1億円以上10億円未満の企業の中には、中小製造業も含まれる。この点を踏まえると、外部組織との連携を行っている中小企業も一定数存在すると推察される。

第3-1-68図は、同調査で「連携したことがある」と回答した企業に対して、連携先の種類を尋ねたものである。これを見ると、中小企業は連携先として第3位に挙がっている。

以上から、大企業側も外部との連携によりイノベーションのきっかけを探していることが分かり、中小企業にとっては大きな機会であると考えられる。

大企業等との連携を行う際は、知財に関する契約関係を厳格にチェックすることが必要である。

事例3-1-21、3-1-22は大企業との連携により新たなビジネスチャンスを見出した事例である。

最後に、知的財産に関しても触れておく。

研究開発によって得られた技術やノウハウは、事例3-1-23、3-1-24の例からも分かるとおり、長期的な競争優位を築くことができる。

第3-1-69図は、我が国の特許出願件数と中小企業の特許出願件数の推移である。我が国の特許出願件数は2010年から漸減傾向にあるが、中小企業の特許出願件数は増加基調で推移している。

このような流れは、我が国経済を牽引していくための重要な取組を中小企業が積極的に行っていることを示唆しており、今後更なる積極的な取組が期待される。

第3節 まとめ

本章では、まず、中小企業を取り巻く外部環境の変化を「人口減少」「デジタル化」「グローバル化」の3つの観点から整理し、「人口減少」という脅威に対して「デジタル化」「グローバル化」は大きな機会になる可能性を示した。

次に、「消費者」「従業員」「社会」の観点から、中小企業を取り巻くステークホルダーの価値観の変化を分析し、ステークホルダーが求める価値を提供していくことが、これからの社会で事業を継続していくために重要であることを述べた。

最後に、以上の社会変化を踏まえ、これからの中小企業に期待される役割を「我が国経済を牽引する役割」「サプライチェーンを支える役割」「地域経済を活性化する役割」「地域の生活・コミュニティを支える役割」の4つの切り口から見てきた。

これからの社会は、これまで以上の速度で変化していくと予想され、その見通しも不透明である。中小企業は、引き続き我が国の経済・社会を支える重要な存在であり続けると考えられる。しかし、デジタル化やグローバル化で、企業規模が小さいことによる有利も不利も解消されつつある中では、中小企業という存在を捉えなおすことも必要であろう。

こうした中でこれからの中小企業に求められるのは、我が国が置かれている現状を踏まえ、自社が社会から求められている役割を改めて明確にするとともに、その役割を果たすために必要な自己変革を積極的に行っていくことであると考えられる。
全選択
第2章 防災・減災対策

前章では、中小企業の事業環境の変化について分析をするとともに、それに対応するための自己変革や、周囲の関係者(ステークホルダー)の役割について議論した。そうした取組の中で重要なものの一つに、防災・減災対策が挙げられる。改めて言うまでもなく、我が国は自然災害が多く、2018年は大阪府北部地震、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)、台風第19~21号、北海道胆振東部地震など、地域の中小企業・小規模事業者に大きな影響を与える大規模な災害が続けて発生した(第3-2-1図)。こうした事業環境の変化に対応すべく、中小企業は自ら自然災害への事前対策に取り組み、周囲の関係者を巻き込んで、事業を継続するための体制を構築する必要がある。

また、首都直下地震や南海トラフ地震の発生が想定されることに加えて、近年は水害の発生リスクも上昇している。大規模災害は、中小企業の事業継続に大きな影響を及ぼし、そうした影響を小さくするには、自然災害に対する事前の備えが重要である。

第3部第2章では、我が国の自然災害の発生状況や中小企業への影響を概観するとともに、中小企業における自然災害に対する備えの状況などについて分析していく。

第1節 中小企業に対する自然災害の影響

1 世界における我が国での自然災害の被害額

はじめに、世界における我が国での自然災害の被害額について確認する。第3-2-2図は、世界における1985年から2018年までの自然災害による累積被害額構成を示している。これを見ると、我が国における自然災害による被害額の割合は世界全体の14.3%と高い水準にあることが分かる。

第3部 中小企業・小規模企業経営者に期待される自己変革 
2 我が国における自然災害の発生状況

次に、我が国における自然災害の発生状況などについて確認する。我が国における自然災害による被害の内訳を見ると、発生件数は「台風」が57.1%と最も多く、次いで「地震」、「洪水」が多い(第3-2-3図)。他方、被害額は、一たび発生すれば広域に甚大な被害をもたらす「地震」が8割超を占めており、次いで「台風」、「洪水」の順となっている。

第3-2-4図は、我が国における自然災害の発生件数と被害額の推移を示している。これを見ると、自然災害の発生件数が変動を伴いながら増加傾向にあり、阪神・淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)の発生時には大規模な被害を記録している。

中でも、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)では、豪雨災害としては初めて中小企業被害が激甚災害(本激)として指定されるなど、広範囲に大きな被害をもたらした。第3-2-5図によれば、こうした被害をもたらす大雨について、1時間降水量50mmを上回る大雨の発生件数が、この30年間で1.4倍に増加していることが分かる。今後も気候変動の影響により、水害が頻発することが懸念される。

「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」(昭和37年法律第150号)に基づき、国民経済に著しい影響を及ぼし、かつ、当該災害による地方財政の負担を緩和し、又は被災者に対する特別の助成措置を行うことが特に必要と認められる災害が発生した場合に、政府は、政令でその災害を「激甚災害」として指定するとともに、当該激甚災害に対し適用すべき措置を併せて指定することとしている。激甚災害に指定されると、地方公共団体の行う災害復旧事業等への国庫補助の嵩上げや中小企業者への保証の特例等、特別の財政助成措置が講じられる。なお、激甚災害の指定は、中央防災会議が定めている、「激甚災害指定基準」(本激の基準)及び「局地激甚災害指定基準」(局激の基準)による。

第3-2-6図は、1995年から2017年にかけて災害救助法が適用された都道府県及びその回数を示したものである。ほとんどの都道府県において災害救助法が適用されており、大きな自然災害は、地域によらず各地で発生する可能性のあることが示唆されている。

災害救助法の適用要件
救助法の適用については、〔1〕災害によって市町村等の人口に応じた一定数以上の住家の滅失(全壊)がある場合、〔2〕多数の者が生命又は身体に危害を受け、又は受けるおそれが生じた場合であって、避難して継続的に救助を必要とする場合等、〔1〕〔2〕いずれかの場合であり、近年の災害においては、主に〔2〕の理由による適用のケースが多い。なお、同法の適用については都道府県知事が判断し、決定することとなっている。

我が国はその地形、地質、気候などの自然条件から、自然災害の発生リスクが高い。また、自然災害は全国各地で発生しており、各地の中小企業にとっては、決して「他人事」ではない。各々の事業者は自らの立地地域における自然災害のリスクを認識し、「自分事」として災害への備えを考えていく必要がある。

3 被災による中小企業への影響

〔1〕中小企業が被災した際に生じる問題

本項では、中小企業が自然災害によって受けた被害の実態などについて把握する。ここでは、「中小企業の災害対応に関する調査」(以下、「アンケート調査」という。)を用いて分析を行っていく。なお、本アンケート調査は、大規模災害の被災地域における20,006者(回収率15.3%)、その他の地域における9,994者(回収率14.6%)、計30,000者(回収率15.1%5)を送付対象としている。


〔2〕中小企業が過去に被災した自然災害

第3-2-7図は、過去に事業上の損害を被った自然災害について確認したものである。アンケート回答者は「平成23年3月:東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)」により被害を受けたと回答する企業が最も多く、次いで「平成30年7月:西日本豪雨(平成30年7月豪雨)」、「平成28年4月:熊本地震」となっている。

〔3〕自然災害が中小企業に与える損害

第3-2-8図は、前掲第3-2-7図で回答した災害時における事業上の被害内容を示したものである。これを見ると、「役員・従業員の出勤不可」と回答する企業が最も多い。また、「販売先・顧客の被災による、売上の減少」及び「仕入先の被災による、自社への原材料等の供給停止」との回答も一定割合を占めており、自社の被災だけでなく、仕入先や顧客の被災を要因とした事業上の損害も数多く発生していることが分かる。

被災時における物的損失額を示す第3-2-9図によると、従業員の規模に関わらず、100万円以上の損害を受けた企業の割合が7割を超え、1,000万円以上の損害を受けた企業の割合も3割を超えている。

第3-2-10図は、中小企業が過去に被災した災害別に、被った物的損失額を見たものである。いずれの災害においても、100万円を超える物的損害を被っている企業の割合が大部分を占めていることが分かる。

中小企業の被災時における営業停止期間を示す第3-2-11図によると、従業員規模に関わらず、約半数が「営業は停止せず」と回答する一方、4日以上営業を停止した企業は3割を超えていることが分かる。

第3-2-12図は、被災による営業停止期間を、物的損失額別に示したものである。損害額が大きいほど、「営業は停止せず」と回答した企業の割合が低くなり、営業停止期間が長くなる傾向がある。建物・設備などの物的損害が、復旧に影響を及ぼしているものと推察される。

第3-2-13図は、被災による営業停止期間別に、被災3か月後における被災前と比較した取引先数の推移を見たものである。これによると、営業停止期間が長いほど、取引先数が減少する傾向にある。

第3-2-14図は、過去に被災経験がある企業の、被災3か月後における、被災前と比較した売上高の変化を見たものである。被災した企業の35%で、売上高が減少している。また、売上高が減少した企業における売上高の減少割合を見ると、3割以上と回答した企業が半数近くを占めていることが分かる。

第3-2-15図は、売上高が下がった企業を対象にして、取引先数減少の有無別に、売上高が元の水準に戻るまでの期間を示している。被災して取引先数が減少した企業では、横ばいの企業と比べて、元の水準に戻るまでに1年超を要した企業や、元の水準に戻っていない企業の割合が高い。被災によって取引先が減少すれば、売上高が元に戻るまでに時間が掛かる傾向が見て取れる。したがって、売上高を被災前の水準に維持するためには、取引先数の減少を防ぐ必要もあると考えられる。

以上のとおり、自然災害による中小企業の被災は、物的損失に加えて、営業停止、取引先数の減少、売上高の減少などの事業上の影響をもたらすことが分かる。さらに、営業停止期間が長引くほど取引先数が減少する可能性が高まり、それにより、被災によって下がった売上高が元の水準に戻るまでの期間が長期化することを踏まえると、被災後における円滑な事業継続のためにも、営業停止期間を短期間に抑えることが重要と考えられる。

〔4〕復興に向けて活用したもの

第3-2-16図では、被災した中小企業が復興する際に活用した支援策などを示している。これを見ると、「損害保険」と回答した割合が最も高く、次いで「民間金融機関による貸付」、「国・自治体の補助金」と続いており、公的な支援策のみならず民間サービスの活用も重要であることが分かる。

4 まとめ

本節では、我が国における自然災害の被災状況などについて概観した。世界的に見ても我が国は自然災害による被害額が大きく、中でも地震により大きな損害を被ってきたことが分かる。他方で、近年は豪雨の発生件数も増えてきており、今後も頻発することが懸念される。

また、自然災害が中小企業に与える影響なども確認した。被害の内容は多岐にわたり、大きな物的損害の発生や、営業停止に陥る可能性もあることが分かった。加えて、営業停止が長引くにつれて、取引先が減少することも懸念される。

安定して事業継続をしていくためにも、今後、自然災害への事前対策がより一層重要になってくるといえよう。
全選択
第2節 中小企業における、自然災害への対策状況

1 自然災害に関するリスク認知の取組

〔1〕リスクの把握状況

一口に自然災害といっても、地震、水害、土砂災害など、その種類は多岐にわたる。中小企業が自然災害への備えを講じる上では、自社がどの自然災害のリスクをどの程度抱えているかを知ることが、取組の入口になる。本節では、自然災害対策に具体的に取り組む前段階としての、リスクの把握状況について分析を行っていく。

第3-2-17図は、自然災害に関して自社が抱えるリスクの把握状況を従業員規模別に見たものである。従業員規模が大きくなるにつれてリスクを把握している度合いは高くなるものの、全体を通して「いずれ調べてリスクを把握したい」との回答が多く、いずれの従業員規模においても、半数以上の中小企業が現時点においてリスクを把握していないことが分かる。さらに、「既に調べて把握し、被災時の損害金額まで想定できている」との回答は、従業員規模に関わらず最も少なくなっており、総じて、自社が抱えるリスクを把握する取組は十分に進んでいないことが分かる。

第3-2-18図は、自然災害への備えに取り組むための社内体制別に見た、自社が抱えるリスクの把握状況である。「既に調べて把握し、被災時の損害金額まで想定できている」、「既に調べて、一定程度把握している」の合計割合は、全社単位で取り組んでいる企業で57.4%である一方、社内での体制が特にない企業においては37.8%にとどまっている。リスクを把握するに当たり、社内体制の整備が取組の土台になっていると考えられる。

第3-2-19図は、自社が抱えるリスクの把握状況別に、自然災害に対する具体的な備えの取組状況を見たものである。リスクを把握する取組を行っている企業では、自然災害への備えに取り組んでいる者の割合が高いことが分かる。両者の因果関係は明らかではないものの、抱えるリスクを調べて把握することが、具体的な備えに取り組むきっかけとなっている可能性が示唆されている。

〔2〕リスクを把握する際における支援者

第3-2-20図は、リスクを把握できている中小企業が、自社の抱えるリスクを把握するに当たって支援を受けた者を示している。「特になし(自社のみで対応)」との回答が最も多くなっており、既に取り組んでいる企業においては、周囲の支援を受けずに自力でリスク把握に取り組む企業が多いことが分かる。他方、外部からの支援を受けた者では、「取引のある保険会社・保険代理店」が最も多く、保険販売の際などに、中小企業が自社の抱えるリスクを把握する機会が提供されているものと推察される。また、「仕入先」や「販売先」など、サプライチェーン上の取引先に該当する者から支援を受けているケースも一定数存在しており、サプライチェーン単位での災害対応を進める観点からの取組も見て取れる。これに加え、「行政機関」、「取引のある金融機関」、「地域の支援機関」など、自然災害以外でも経営支援を行っている支援者が自然災害に対しても支援を行っていることが分かる。こうした中小企業を取り巻く周囲の関係者の働きかけも、中小企業のリスク把握において一定の効果があるといえよう。

〔3〕ハザードマップの活用状況

自社の地域の自然災害発生リスクを把握するためのツールの一つに、ハザードマップがある。ハザードマップは、国土交通省ハザードマップポータルサイトや各自治体の発信する情報で見ることができる。

ハザードマップは、例えば、豪雨発生時の浸水リスクや、地震発生時の土砂災害リスクなどの把握に役立つ。また、自然災害リスクを把握することで、水災を補償する損害保険への加入や、安全な地域への立地変更、従業員の避難計画作成など、事前対策の内容を検討する際にも役立つ。

しかし、中小企業におけるハザードマップの活用状況を見ると、従業員数が100人以下の企業ではハザードマップを見たことのある割合は4割程度であり、101人以上の企業でも5割に満たないことが分かる(第3-2-21図)。ハザードマップの活用による防災への取組は、まだ拡大の余地があると考えられる。

第3-2-22図は、アンケート調査の回答企業における自社の地域のハザードマップの確認状況を、ハザードマップ上での浸水リスク区分別に示したものである。ハザードマップを確認したことがあると回答した企業の割合は総じて5割以下となっており、浸水の可能性がほぼない0mの地域に立地する企業を除くと、大きな差は見受けられない。ハザードマップ以外の情報で自社の浸水リスクを把握しているケースもあり得るものの、リスク把握の取組は徹底されていないと考えられる。

第3-2-23図は、自然災害に対する備えの取組状況を、自社の地域のハザードマップの確認有無別に見たものである。ハザードマップを見たことがある企業では、自然災害への備えに取り組んでいる割合が、そうでない企業に対して高くなっている。両者の因果関係は明らかではないが、ハザードマップを確認した結果として自然災害への備えに取り組んでいる、若しくは自然災害への備えに取り組む第一歩としてハザードマップによるリスク状況の把握に取り組んでいることが推察される。

2 自然災害に対する備えの状況

〔1〕自然災害に対する具体的な備えの取組状況

第3-2-24図は、実際に、自然災害への備えに具体的に取り組んでいる中小企業の割合を示したものである。「取り組んでいる」と回答した企業の割合は45.9%であり、半数以上の中小企業が具体的な備えを行っていないことが分かる。

第3-2-25図は、自然災害に対する備えに取り組んでいる企業に、その理由を聞いたものである。最も回答が多かったのは、「自身の被災経験」、次いで「国内での災害報道」である。他方、行政機関や販売先など、周囲の関係者から勧められて取組を始めた企業も存在しており、こうした周囲からの働きかけも一定の役割を果たすと考えられる。

第3-2-26図は、被災経験がある事業者について、被災により下がった売上が元の水準に戻るまでの期間を、被災前における自然災害対策の実施有無別に見たものである。被災以前に自然災害への備えを行っていた企業では、そうでない者に比べて「半年以内」といった比較的短い期間で元の水準に戻った割合が高く、「元の水準に戻っていない」企業の割合も低くなっている。

〔2〕具体的な取組内容

次に、自然災害への備えに取り組んでいる企業が具体的にどのようなことを行っているか、大きな設備投資を必要とせずとも実施できるソフト面での対策(以下、「ソフト対策」という。)と、施設整備などを必要とするハード面での対策(以下、「ハード対策」という。)ごとに見ていく。

第3-2-27図は、具体的に取り組んでいるソフト対策を示したものである。「従業員の安否確認に関するルールの策定」の回答が多く、次いで「水・食料・災害用品などの備蓄」、「従業員への避難経路や避難場所の周知」と続いている。全体として、従業員規模が大きいほど取組が進んでいる傾向にあるが、規模によらず十分に取組が進んでいない項目も多い。一般的な防災対策として挙げられる、安否確認ルールや非常食などの準備、防災訓練の実施などに比べて、被災時に活用するための取引先の連絡先リストの準備や、事業継続に必要な資金の確保、代替生産先の確保などの、事業再開に向けて必要となる対策については、実施しているとの回答が相対的に少ない。

第3-2-28図は、自然災害への備えに取り組んでいる企業が行っているハード対策を示すものである。「建屋や機械設備の耐震・免震、耐震のための固定の実施」、「事業継続に必要な情報のバックアップ対策」、「非常用発電機などの、停電に備えた機器の導入」が上位に挙げられているが、いずれの取組も、従業員規模に関わらず取り組んでいる企業は半数を切っていることが分かる。

3 損害保険・火災共済の活用状況

一たび自然災害が発生すると、建物(事務所、工場など)、設備・什器、商品などの経営資源が損害を受け、修理費用や買替費用等などが発生することが想定される。修理・買替が終わるまで営業停止に陥り、その間も人件費、土地・建物の賃料、リース料などの固定費の支払が継続することもある。こうした復旧・復興に要する費用や、営業停止時も生じる固定費などについて、事前に対策を講じていないと、想定外の支出が生じ経営に大きな影響を及ぼすおそれがある。

そこで、本項においては、こうした事態に対応するためのリスクファイナンスとして、損害保険・火災共済に焦点を当てる。前掲第3-2-16図では、被災企業が復興する際に損害保険を活用している割合が高いことを示した。中小企業が損害保険・火災共済をどれだけ活用し、被災時に効果が発揮されているのか、実態を分析する。

〔1〕損害保険・火災共済の加入状況

第3-2-32図は、自然災害に対応する損害保険・火災共済の加入状況を示している。損害保険・火災共済を合計すると、約9割の企業が加入している。他方で、「加入なし」と回答した企業は8.1%であり、加入有無について把握していない者も一部存在している。

第3-2-33図は、前掲第3-2-32図で、損害保険・火災共済に加入していないと回答した企業に対し、その理由を聞いたものである。最も多い回答は、「被災時にどの程度の金銭的被害が発生するかイメージできない」であり、次いで「加入を意識したことが無かった(今後、加入したい)」となっている。他方、「保険料や共済掛金を支払う原資がない」といった金銭的な理由の回答は相対的に少ない。したがって、より一層の情報提供が、損害保険などで自然災害に備える事業者の増加に資するものと考えられる。

〔2〕損害保険・火災共済の効果

第3-2-34図は、過去の被災時における、事業復旧に対する損害保険・火災共済の貢献度を示している。「役立った」、「やや役立った」の合計が半数を超えており、被災時における中小企業の資金確保を通じて復旧・復興に貢献していることが分かる。

第3-2-35図は、被災時に損害保険や火災共済が「役立った」、「やや役立った」と回答した企業が、そう考えた理由を示したものである。「保険金や共済金の支払いが迅速だった」や「担当者の対応が丁寧だった」が上位に挙げられている。また、「復旧資金の確保により事業を継続することができた」の項目は、従業員規模が小さくなるほど回答割合が高くなり、事業継続において資金の確保が重要となっていることが分かる。

第3-2-36図は、被災時に、損害保険や火災共済が事業復旧に対し「あまり役立たなかった」、「全く役立たなかった」と回答した企業が、そう考えた理由である。最も回答割合が高かったのは、「被災した災害は補償の対象外であった」となっている。

損害保険などに加入していても、補償の内容によって保険金支払いの対象外になる場合があり、それが役立たなかったと感じる主な要因になっていると推察される。被災時のリスクに十分に備えるには、加入している損害保険・火災共済における補償内容の確認及び見直しなどが重要であるといえよう。

〔3〕水災被害に対する補償内容の違い

損害保険・火災共済には多様な商品及び特約が存在し、それにより補償対象も異なる。円滑な事業再開のためには、事前に自社にとって適切な補償内容の商品を選択し、加入しておくことが重要である。

ここでは、その中でも水災によって受けた損害を補償する損害保険・火災共済に焦点を当て、加入する商品の補償内容による被災時の効果の違いなどを分析する。

はじめに、第3-2-37図にて、中小企業がリスクを感じる自然災害について確認する。「地震」の回答が最も多く、次いで「豪雨・洪水」、「台風・高潮」と続いている。従来から発生頻度が高い「地震」へのリスク認識は8割を超えるのに対し、平成30年7月豪雨を経ても、「豪雨・洪水」は半数程度にとどまっている。

第3-2-38図は、自然災害に対応する損害保険・火災共済に加入している企業における、加入している商品の水災被害への補償内容を示したものである。「豪雨・洪水」の発生を危惧している企業は、そうでない企業と比べて「水災は補償しない商品」、「分からない」と回答した割合が少なく、相対的に、水災に対する意識の強さが表れている。

しかし、「豪雨・洪水」を危惧する者であっても、「水災は補償しない商品」に加入している者が18.4%もいることに加え、「水災に対応しており、損害の一部割合を補償する商品」に加入している割合が32.5%と最も高くなっており、被災時において十分な補償を受けられないおそれもある。また、「水災に対応しており、損害の満額を補償する商品」に加入している割合は32.1%にとどまっており、「豪雨・洪水」を危惧していない者とさほど変わらない。

さらに、「豪雨・洪水」の発生を危惧するか否かに関わらず、そもそも自社の加入している保険商品について水災を補償するか否かが「分からない」と回答する者が2割弱存在している。こうした企業においては、損害保険に加入しているということで安心してしまっているおそれもあり、契約内容をしっかりと確認するように促していく必要がある。加入する保険などの補償内容は、個々の資金的余裕の状況やリスクの想定を踏まえて選択されるべきものであるが、補償内容の違いにより、被災時に受け取れる保険金の金額が大きく変わる可能性があるため、それを踏まえて加入する商品の補償内容を決める必要がある。

第3-2-39図は、過去に水災の被害を受けた際に損害保険・火災共済に加入していた企業における、損害保険・火災共済の事業復旧への貢献度を、水災による損害への補償内容別に示したものである。加入商品の補償が小さくなるほど、水災による損害に対し十分な保険金を受け取れず、貢献度の低下につながっていることが分かる。

第3-2-40図は、水災被害による損害に対する補償内容について、「損害の一部割合を補償」又は「補償無し」の商品を選択した理由を示している。「自社の地域における水災の発生リスクは低い(ハザードマップ等で根拠を確認済み)」の回答が最も多い一方で、「自社の地域における水災の発生リスクは低い(ハザードマップ等の根拠を未確認)」、「何かしらの補償に加入していれば安心と考えた」、「補償の違いを意識したことがない(今後、補償を拡充させたい)」の回答が上位となっていることが分かる。自身が抱えるリスクを十分に把握していないため、適切な商品の選択を行えていない者も一定程度存在するものと考えられる。

第3-2-41図は、アンケートの回答企業におけるハザードマップ上での浸水リスク区分別に、水災による損害への補償内容について示したものである。これによると、浸水リスクが存在する企業においても、「水災に対応しており、損害の満額を補償する商品」に加入している者の割合は3割程度にとどまっている。また、「水災は補償しない商品」、「分からない」の回答の合計も3~4割を占めており、当該企業が浸水被害を受けた場合に補償の対象とならないことが懸念される。


4 BCP(事業継続計画)の取組

〔1〕中小企業におけるBCP(事業継続計画)の取組状況

事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)とは、大地震などの自然災害、感染症のまん延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーン(供給網)の途絶、突発的な経営環境の変化などの不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させない、又は中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順などを示した計画のことを指す。BCPを事前に策定することで、被災時における早期の事業再開が期待されている。

優先して継続・再開すべき中核事業を絞り込み、対応策を盛り込んだBCPを策定しておけば、活用できる経営資源が限られる緊急時でも、復旧度合い、スピードは大きく改善する(第3-2-43図)。業務を継続・早期再開できれば、取引先や顧客などへの責任を果たすことができ、取引先を失うリスクも低減すると考えられる。

第3-2-44図は、従業員規模別にBCPの策定状況を示したものである。これによると、BCPを策定している割合は全体の16.9%となっている。また、従業員規模が小さくなるほど策定割合が低くなり、名称を知らない企業の割合が高くなっていくことが分かる。

第3-2-45図は、BCPを策定している企業にとって、そのきっかけとなったことを示したものである。「販売先からの勧め」の回答が最も多く、「行政機関からの勧め」が続いている。BCPの策定を進めるには、周囲の働きかけが効果的であると考えられる。

第3-2-46図では、BCPを策定した企業が、その際に参考としたものを示している。参考にしたものとして「中小企業庁:BCP策定運用指針」、「セミナー等への参加」が多いことが分かる。

第3-2-47図は、BCPを策定した企業が感じている平時のメリットを示したものである。「重要業務とは何か見直す機会になった」が約6割と最も多い。BCPの策定は自社の事業を見直し、生産性向上につながるような策を講ずるきっかけになっていることが見て取れる。「効果は感じていない」と回答した企業の割合は1割強にとどまっており、大半の企業が、BCP策定により何らかの平時のメリットを感じていることが分かる。

第3-2-48図は、BCPを策定していない企業における、その理由を示したものである。「人手不足」が最も多いが、「複雑で、取り組むハードルが高い」、「策定の重要性や効果が不明」といった理由も多く、現状ではBCPの策定は中小企業にとって難しい取組と考えられていることが分かる。

第3-2-49図は、BCP未策定の企業における今後の策定予定を、過去の被災経験の有無別に示したものである。これによると、被災経験があっても、「策定を考えていない」と「策定予定だが、時期は不明」の二つの項目で9割を超える。過去に被災経験があっても、積極的にBCP策定に向けて活動する企業は少ないことが分かる。

第3-2-50図は、自然災害の発生による自社及び他社への影響などについて、事前に検討したことがある事項を確認したものである。BCPを策定している企業では、いずれの取組においても、検討した経験があると回答した者が大半を占めている。他方、BCPを策定していない企業においても一定割合は検討を行っていることが分かる。BCPという形にはなっていなくとも、自然災害による事業への影響や対策などについて検討している企業が一定数存在するといえよう。

第3節 まとめ

以上、本章では、中小企業における、自然災害に対する防災・減災対策などについて概観してきた。

我が国における自然災害の発生リスクは依然高い水準にあり、実際に被災した事業者は様々な損害を被っている。中小企業は被災時における事業継続力を高めるためにも、今後、一層の事前対策を講じていくことが必要とされる。

災害対策の入口として考えられるリスク把握の取組については、大半が行っておらず、具体的な災害対策に取り組んでいる企業も半数に満たないことが分かった。他方で、具体的な対策を実施している企業においては、行政機関や取引のある保険会社など、周囲の関係者の支援を受けている者が存在する。リスク把握の取組も含め、このような支援者の役割は今後も重要になると考えられる。

損害保険は、被災時に重要な役割を果たしており、被災した事業者の資金確保を通じて、事業継続に寄与していることが分かった。他方、補償内容によって受け取れる保険金に大きな差が出る可能性があるため、日頃から自社が抱えるリスクを把握した上で、それに見合った補償内容を選択する必要があるといえよう。

BCPを策定している中小企業は一部にとどまっており、今後策定する予定の企業もさほど多くはないことが分かった。他方で、BCPを策定せずとも、自然災害の発生時における自社や他社への影響及び対策を検討している事業者は一定数存在する。引き続き、自社に見合った規模の取組から行い、事業継続へ向けた体制の整備が徐々に進んでいくことが期待される。

自然災害に対する備えの重要性がより一層理解されることで、具体的に対策を講じる事業者が増加し、それが被災時のみならず平時を含めた中小企業の事業継続力強化につながっていくことを期待して本章の結びとしたい。

🙌🙌最後までお読みいただきありがとうございます!🙌🙌
✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨
応援クリックが更新の励みです!
今日も1日
にほんブログ村 にほんブログ村へ
✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨
G 中小企業経営・中小企業政策
Kotaroをフォローする
中小企業診断士ホルダーへの道

コメント

タイトルとURLをコピーしました